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フジテレビ事件考

フジテレビ事件考

世の中はフジテレビの事件で騒がしいですが、報道や記者会見を見ていて、産業医として、とても不思議なことがあります。

それは、

「なぜ被害を受けた女性は事件を会社に報告したのか?」

「なぜコンプライアンス担当部署が事件を最近まで知らなかったのか?」

の2点です。

関テレの大多社長(事件当時のフジテレビの専務取締役)は記者会見で、

「ある種の衝撃を私は受けました。とにかくこれは、この女性のケア、プライバシー、人権、精神のケアというのを本当にどれだけしっかりとやらなければいけないというふうに強く思ったのを覚えております。大変重い案件でありますので、これは社長には上げないといけない。あの、僕までで止めとくこともですね、考えられなくもないですけど…知ってる人が増えるということは避けた方がいいのかというような考えもありましたが、私の判断で港社長に上げた。その日のうちに上げたような記憶があります」

と話していました。

これはとても不思議です。会社は仕事をする場所なので、個人が自分の時間に何をしようが関与しませんし、してはいけません。いくら会社で元気がないから、といっても「昨日家で夫婦喧嘩をしたので…」なんていうことを会社に報告する必要はありませんし、ましてや社長に報告が行くことはあり得ません。フジテレビの幹部や社長が繰り返し主張している「プライベートな案件なので…」という説明は無理筋なのです。

特にプライバシーの問題の中でも、性的な問題が絡むような話は、社員は会社には隠します。たとえその相手が会社の取引先や顧客という会社に関係がある相手だったとしても、プライベートな関係で起きた被害を「まず会社に報告する」ことは一般的ではありませんし、プライベートな案件を会社に持ち込まれても困ります。

会社に報告すれば、自分と直接関係ない会社の人にも情報が伝わることを覚悟しなくてはいけないのが現実なので、「プライベートでの性的被害を会社に報告する」というのは、被害女性側にかなり強い処罰感情があって「自分が受けた被害をある程度公にしてでも相手を処罰したい」という場合がほとんどです。そうでない場合に、被害者が会社に報告する、というのは、プライベートな問題ではほぼあり得ません。

一方、被害を受けた方が、会社に報告をしなくてはいけないのはどのような場合か、というと、「就業時間中のできごと」「就業環境(社内)でのできごと」「業務のための必要時間(通勤途中や就業時間後の食事会など)に起きたできごと」です。これらは会社が業務中として社員を保護しなくてはいけないからです。これは、社長が守る、とか、〇〇さんが守る、というような話ではなく、業務上の問題ですから、現代的な会社組織であればコンプライアンス部門が事情を聴取したうえで、客観的に誰をどう守るのか、という判断をするように仕組みが作られています。フジテレビ程の大きな企業のコンプライアンス担当者が「最近まで事件を知らなかった」という発言をしたことは、社長や取締役が、「会社のコンプライアンス機能を無視した」訳ですから、許容できる話ではありません。そもそも、大多社長が「私だけで止めておくことも考えた」というのは、組織マネジメントとしては致命的に異常です。

中居さんと被害女性の間でどんなことがあって、どのような決着をしたのか、は個人の話なので、別に明らかにさせる必要もないことです。

しかし、事案が起きて、それが会社に報告された以上、会社としては「社員や事業に対しての影響を考慮するために」コンプライアンス部門に即座に情報共有しなくてはいけません。私だけで止める、とか、私が被害者の人権を考える、というのは、旧石器時代並の古臭くて誤った考え方でしかありません。

そして、その異常性を指摘できる人が今まで、社内にはいなかったこと、が最大の問題点なのです。

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