「お薬を飲むと副作用が怖いなぁ…」
「副作用のないお薬を下さい」
…なんていうことを言ったことはありませんか?
はてさて、「薬の副作用」って何なのでしょう?
薬には病気や怪我を治す主作用がある一方で、それとは異なる別の作用が働くことがあり、それを副作用といいます。「主作用では無い薬理作用」のことを副作用と言います。
例えば、「酸化マグネシウム」という薬は、便通をよくしたり、胃酸から胃の粘膜を守る効果があります。便秘で飲んでいる場合には、便通が良くなることは期待する作用ですが、胃の薬で飲んでいる場合には、便がゆるくなってしまうのは、副作用になります。
副作用が起きるメカニズムには、①薬理学的作用に基づくもの、②体質が影響するもの、③薬物相互作用によるもの、の3つがあります。
①薬理学的作用に基づく副作用
「花粉症の薬を飲んだら、鼻水や目のかゆみは治まったけど急な眠気が襲ってきた」というように、薬が複数の臓器に対して異なる効果を示すときにあらわれるものや、「高血圧の薬を飲んだらめまいがした」のように効果が予想以上に強く表れることによって生じるものです。
薬は体内でレセプターに結合して、ある生体内メカニズムを抑制したり、促進したりして効果を示します。レセプターが1か所に限定的に存在していれば副作用は起きにくくなりますが、複数の組織や臓器に分布しているのが普通です。
花粉症などのアレルギー性鼻炎によく用いられるのは抗ヒスタミン薬です。ヒスタミンは、マスト(肥満)細胞や好中球の中の顆粒に含まれている、アレルギー性鼻炎などの生体のアレルギー反応を促進する物質です。花粉などのアレルゲンが粘膜に接触すると体内に抗体が作られ、次にアレルゲンが接触した時に、マスト細胞などからヒスタミンなどのアレルギー誘発物質が分泌されて鼻水などのアレルギー症状が現れます。抗ヒスタミン薬はヒスタミン受容体(レセプター)へのヒスタミンの結合をブロックして、アレルギー症状を止めて花粉症の症状を抑えます。
ヒスタミンにはH1~H4の異なる受容体があり、分布や作用が異なります。アレルギーに関与しているのはH1受容体で、脳や気管支などに分布しています。このためアレルギー反応を抑えようとして抗ヒスタミン薬を使うと鼻水は止まりますが、脳に入った抗ヒスタミン薬は脳の活動を抑えてしまうのでぼーっとしたり眠気が出たりします。この場合には、アレルギー反応に対する作用は主作用で、眠気は副作用になります。
逆に抗ヒスタミン薬の眠気を利用して、睡眠導入剤として使う場合もあり市販薬として使われています。この場合には、眠気は主作用ですが、鼻やのどの渇きは副作用になります。
多くの薬は腎臓や肝臓で代謝されるため、それらの機能に異常がある人が服用することで、血中濃度が高い状態が続き、好ましくない副作用が現れることもあります。
また、薬を代謝する能力は年齢を重ねるごとに低下していく傾向にあるので、高齢者は正しい使用方法を守っていても若年層と比べ、副作用が起こりやすい傾向にあります。
②体質が影響する副作用
薬を服用する人の体質によって生じる副作用もあります。「解熱剤を飲んだら熱は下がったけど、皮膚に発疹が出た」などの症状です。正しい用法・用量を守って使用しても現れるものであり、代表的なものとしては発疹(薬疹)などが挙げられます。またそのアレルギー反応が重度な場合にはアナフィラキシーを引き起こすこともあります。
このような薬理作用に基づかない副作用は、自然のものを含めて全ての化学物質が原因となりえます。
体質は生まれつきのこともありますが、後天的なこともあります。代表的なものは、茶のしずく石鹸の使用者が発症した小麦アレルギーです。当該石鹸に含有された加水分解コムギ(グルパール19S)に経皮的に感作してしまい、小麦を含む食品を摂取した際に食物アレルギーの症状が誘発されるようになりました。
一般に、アトピー性皮膚炎や肌荒れなど皮膚のバリア機能が破壊されている場合には皮膚からの感作(経皮感作)が起きやすいので、自然物などが混合された石鹸を使わない方がよいです。
③薬物相互作用
近年では複数の疾患を抱え、複数の診療科を受診している人も多く、沢山の種類の薬を同時に使用しているケースは少なくありません。そのような状況の中で重複投与および多剤併用投与による薬物間相互作用のリスクが増加しています。
それぞれの診療科が他の診療科で処方されている薬を把握しきれずに、有害な薬物相互作用を持つ薬が処方されてしまっているケースも多々存在します。その結果として、重大な副作用を引き起こすケースも少なくありません。
a) 薬物動態学的相互作用
薬の吸収・分布・代謝・排泄などの過程で起こる相互作用です。アムロジピンなどのジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬という血圧の薬は、体内でチトクロームP450(CYP)3A4という薬物代謝酵素で分解されるのですが、グレープフルーツジュースに含まれるフラノクマリン類という化学物質がチトクロームP450(CYP)3A4の働きを阻害してしまうため、薬の分解が邪魔されてしまうので、薬の作用が長い時間、強く表れてしまうことがあります。
代謝酵素の阻害の影響は薬剤によって異なり、同じジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬でもフェロジピンはグレープフルーツジュースの影響を強く受けますが、アムロジピンは影響を受けにくいことが知られています。
抗てんかん薬や睡眠薬にもグレープフルーツジュースの影響を受けやすい薬があるので注意してください。
ちなみに、フラノクマリンはグレープフルーツには果皮・果肉ともに多く含まれていますが、オレンジの果皮・果肉には含まれていないので、オレンジジュースは薬物相互作用を示しません。
b) 薬力学的相互作用
同じまたは逆の薬理作用(副作用)を持つ薬を投与することで起こる相互作用です。
漢方薬には複数の生薬が含まれており、多くの漢方処方に共通して含まれている成分がいくつもあります。甘草(カンゾウ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)などは多くの漢方処方に含まれているので、複数の漢方薬を同時に使うと、このような成分を重複して摂取することになるので、重大な副作用を起こすことがあります。「漢方薬だから副作用を起こさない」というのは重大な間違いです。
「花粉症の薬を飲んでいるけれど、風邪を引いたので薬局で風邪薬を買って飲んだ」という場合にも、風邪薬によく含まれているジフェンヒドラミンは抗ヒスタミン薬なので、花粉症の薬(抗ヒスタミン薬)と重複投与になってしまうことがよくあります。
副作用のない薬は存在しません。薬は常に「リスク」と隣り合わせです。
医療用医薬品の副作用は数%~数10%(1/10~1/100)の頻度で現れますし、その種類も重篤なものや進行のスピードも速いものがあり、医師や薬剤師の管理が必要です。
薬局で売っている医薬品(OTC医薬品)は長年使用されてきて、安全性が確認されているものです。副作用の頻度も1/100~1/1000以下と低く副作用の種類や重篤度も軽度なものです。
ワクチンはこれよりももっと副作用の頻度は低くなっていて100万分の1(ppm)の単位で、死亡例や重篤な副作用以外の頻度はとても低くなっています。