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6月のトピック 医薬品の副作用 その2 処方薬、OTC薬、ワクチンの違い

「副作用が怖いから薬は飲みたくない」という方がいらっしゃいます。一方で、「漢方薬は自然のもので副作用がないから長く飲んでも副作用がなく安全だ。」と思っている人もいます。

これらはすべて危険な間違いです。

副作用のない薬は存在しません。薬は常に「リスク」と隣り合わせです。たとえ自然由来の物質であっても、薬効を示す以上、副作用のリスクがあります。

その代表的な例が紅麹サプリです。紅麹は紅色の色素を産生する紅麹菌というカビで発酵させた紅色の色素としても使用される発酵食品です。紅麹菌が産生する物質の1つにモナコリンKという物質があります。この物質はコレステロールを低下させる作用があるHMG-CoA阻害薬という医薬品の1つであるロバスタチンという物質と同じものです…というよりも、同一物質を日本ではモナコリンK、アメリカではロバスタチンという名前で特許登録したので名前が違うだけです。コレステロールが下がる量の「モナコリンK」が含有された紅麹サプリを飲めば、コレステロール低下剤であるロバスタチンを飲んでいるのと同じですから、当然同じ頻度で副作用が発生する可能性があります。

モナコリンKが日本で化合物特許を取っていたため、アメリカで販売されていたロバスタチンは日本では特許を取ることができず、日本では医薬品として開発されなかったため、日本では医薬品の規制を受けないサプリとして販売されてしまったものです。

死亡事故の原因は製造工程で異常混入したプベルル酸が混入したことによって起きた事故ですが、紅麹サプリを飲んでいる方はHMG-CoA阻害薬を服用しているもの、として副作用管理をする必要があります。

医療用医薬品の副作用は数%~数10%(1/10~1/100)の頻度で現れます。その種類も重篤なものや進行のスピードも速いものがあり、医師や薬剤師の管理が必要です。

薬局で売っている医薬品(OTC医薬品)は長年使用されてきて、安全性が確認されているものです。副作用の頻度も1/100~1/1000以下と低く副作用の種類や重篤度も軽度なものです。

紅麹サプリはOTCレベルではなく、医薬品と同じレベルの安全管理が必要です。

医薬品は効果と引き換えに副作用のリスクが必ずあります。副作用のない医薬品は存在しません。でも、副作用のリスクを怖がりすぎて薬を使わなければ病気のリスクがあります。薬物による治療は「病気の進展による健康障害」と「医薬品によって病気の進展を抑える効果」と「医薬品による副作用のリスク」の3つを天秤にかけた時に、得られる利益が最も大きくなるように選択するべきです。

LDLコレステロールが高い人は動脈硬化のリスクが高くなります。しかし、それは10~20年後のリスクです。30代の人であれば20年後はまだ50歳ですから、コレステロールを下げる薬の効果でこのリスクを大きく下げることができます。また、副作用のリスクも若い人の方が出にくい傾向があり、早期に発見できれば副作用の進展を止めることもできるので、30代でLDLコレステロールが高い人には積極的をするべきでしょう。

でも90歳の方では事情が異なります。90歳の体に薬の副作用が現れると、治るのに時間がかかります。それに、90歳の人の10~20年後の動脈硬化のリスクを下げることには大きな意味がありませんから、医薬品を使って治療する必要性は低くなります。

漢方薬や自然由来のものは副作用を起こさないと思っている方も多いのですが、これも明らかな誤りです。

例えばツムラの漢方処方は129処方ありますが、それに使われている生薬成分は119種類あります。1つの処方には3~10種類ぐらいの生薬が含まれているため、複数の漢方薬を組み合わせて服用すると、特定の生薬の量が多くなりすぎて副作用が現れます。生薬成分によっては激烈な副作用を示す成分が含まれていることもありますから、長期間にわたって漢方薬を無為に処方するのはよくありません。

そもそも漢方薬は「体質改善のために長期間服用するためのもの」ではなく、「即効性に症状をとるためのもの」が主体です。症状を取る時に、西洋医学とは異なり、「体の状態(体質)を変えて病気を治す」という考え方をするので、「体質改善」という言葉が独り歩きして「長い間飲んだ方が良い」というように誤解されてしまったのです。

さて、ワクチンはこれよりももっと副作用の頻度は低くなっていて100万分の1(ppm)の単位で、死亡例や重篤な副作用以外の頻度はとても低くなっています。健常者に接種するものなので、医薬品に比べてはるかに高い安全性を要求されるのです。

100万分の1というのはどれぐらいか、というと、東京都1200万人全員に使用して、12人に副作用が出るぐらいの頻度です。東京には23の特別区、26の市、5の町、8の村があり、計62の区市町村がありますから、ざっくり1つの行政区画に0.1人の副作用発現がみられる程度です。たとえこれが10倍の10万分の1だったとしても、1行政区画当たりようやく1人の副作用が出るかどうかです。

この程度の数の副作用の増加は、「通常では全くみられない特殊な疾患」であれば、0→出現で検知することができますが、そのような副作用でない限り、死亡者数の様に元々の母数が大きい副反応の場合、医療機関が実感として副作用の増加を認識することは不可能ですから、「ワクチンを打ったら自院の死亡者が増えた」と言うようなことはあり得ません。ワクチンの副作用評価の特殊性を理解できていないだけです。

現代では、医薬品やワクチンの副作用は欧米日で情報共有されており、死亡例については因果関係の有無にかかわらず世界中で24時間以内に共有される体制が整っていますから、死亡例や重篤な副作用については世界中で監視をするようになっています。

 

 

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