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2月のトピック ー メンタルヘルスケア

 

今月はメンタルヘルスのお話です。

メンタルヘルスというのは「精神面における健康」や「心の健康状態」を表す言葉です。

メンタルヘルス不調というと、うつ病や適応障害などの精神疾患をイメージするかもしれませんが、ストレスや強い悩み、不安感といった病名が付かない精神状態も含まれています。

世界保健機関(WHO)は、メンタルヘルスの不調を以下のように定義しています。

“「すべての個人が自らの可能性を認識し、生命の通常のストレスに対処し、生産的かつ効果的に働き、コミュニティに貢献することができる健全な状態”

引用:日本看護協会「メンタルヘルス Mental Health

近年、うつ病などの精神障害の労災請求および認定件数は増加傾向にあります。

2023年度の精神障害の労災補償請求件数は2,683件で、5年前の1820件と比べると863件の増加でした(147.4%)。このような現状から、労働者に対するメンタルヘルスケアの重要性が増しています。

 

 メンタルヘルス不調になると脳の機能が低下し、集中力や判断力のほか、ものごとに対する意欲や好奇心も低下します。労働者の心の健康状態は、組織全体の活力や生産性に影響を与えます。メンタルヘルス不調者が職場に増えると、組織全体の活力が失われ、生産性が低下してしまいます。

メンタルヘルスに取り組む際には、一次予防/二次予防/三次予防の3つの段階」を意識することが重要です。

  一次予防【未然に防ぐ】

  二次予防【早期発見】

  三次予防【職場復帰支援】

一次予防は、「未然に防ぐ」ことです。ストレスによってメンタルヘルスに不調をきたす前に予防します。労働者が各自で行うストレス緩和ケアのほか、労働環境の改善もこの段階に含まれます。ストレスマネジメント研修やストレスチェック制度の導入などにより、労働者一人ひとりのメンタルヘルスに対する意識を高めていきます。

 二次予防は「早期発見」です。メンタルヘルスに不調があらわれた労働者を早めに発見して適切な措置を行います。本人が不調に気づいたときに自発的に相談できる相談窓口の設置や、産業医との面談機会を設けることなどが主な施策です。メンタルヘルス専門の外部サービスとの連携も効果的です。同僚や管理監督者も異変にいち早く気づき、気兼ねなく相談できる職場風土を目指します。

 三次予防は「職場復帰支援」です。メンタルヘルス不調によって休職した労働者の職場復帰をサポートします。休職による不安や焦りを緩和させるための精神的なフォローや、復帰後に無理をさせないような仕事面のケアなどを行います。職場復帰支援とは、休業の開始から通常業務への復帰までの流れを明確にして制度化・ルール化したものです。

 

  「3つの段階」に加えて、「4つのケア」を継続的かつ計画的に行うことが重要です。

 1 セルフケア:個人(労働者自身) → 労働者自身でストレスの予防、対処をする

 2 ラインによるケア:管理監督者 → 管理監督者が職場のストレス要因を把握して改善する

 3 産業保健スタッフ等によるケア:事業場全体 → セルフケアおよびラインによるケアの実施をサポートする

 4 事業場外資源によるケア:外部 → 外部の機関やサービスを活用する

 

セルフケアは労働者自身でストレスを予防し、気づいたときに適切に対処することです。セルフケアは正しい知識がないとうまく対処できないため、事業者は労働者への情報提供や教育研修によりサポートします。ストレスへの気づきを促すためには、ストレスチェックの実施も有効です。

「3つの段階」の取り組みと「4つのケア」を継続的かつ計画的に実施できれば、労働者のメンタルヘルス不調を防ぎ、発生時も適切に対処できます。

 

セルフケアの具体的な取り組みとしては、次のようなものがあげられます。

1)ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解

メンタルヘルスへの理解は進んできたものの、メンタルヘルス不調に対してネガティブなイメージを持つ労働者はいまだに多いものです。また、メンタルヘルス不調は、けがや病気などと異なり周囲からは分かりにくいため、「サボっている、甘えていると思われるのでは」などと考えがちです。 メンタルヘルス不調は、誰でもなる可能性があること、そして回復できることなど、正しい知識を理解することが不可欠です。

2)ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き

メンタルヘルス不調が悪化する前に、正しく労働者自身の状態を把握するためにはストレスチェックを利用することが効果的です。

3)3つのRを意識したストレスへの対処

ストレスはためすぎないよう、小さなうちに対処することが重要です。その際、3つのR(Rest・Recreation・Relax)を意識するのが効果的とされてています。

1.Rest:休息、休養、睡眠

意識的に、休息や休養をしっかり取ることです。規則正しく睡眠を取るようにします。また、仕事中でも席を立って歩く、コーヒーを飲むなど、疲労が蓄積する前に短い休憩を取ることも効果的とされます。

2.Recreation:趣味・娯楽や気晴らし

休日は、好きなことに夢中になる時間をつくります。仕事から離れて、気分転換する時間をつくることが大切です。

3.Relax:ストレッチ、音楽などのリラクセーション

疲労が蓄積したり、緊張状態が続いたりすると、体に力が入ります。呼吸を落ち着かせたり、筋肉の緊張を和らげたりするストレッチなどをすると効果的です。 また、就寝前に音楽を聴くなど、リラックスできる時間を設けます。

また、ストレスに対処するための方法としてストレスコーピングという方法があります。

ストレスコーピング(stress coping)というのは「ストレス対処法」で ストレスの基(ストレッサー)にうまく対処しようとする方法の事です。ストレスコーピングには、①問題焦点コーピング、②情動焦点コーピング、③ストレス解消型コーピングがあります。

①問題焦点コーピング

ストレスの原因であるストレッサーそのものに働きかけて、それ自体を変化させて解決を図ろうとする方法のことです。例えばストレスを遠ざける、ストレスから離れるなどの方法です。例えば、仕事で業務量が多すぎてストレスを感じる場合には、ストレッサーは仕事なのでそれに対して

1.仕事量を調整してもらう

2.仕事のやり方を見直して業務量の軽減を図る

3.一旦休職して仕事から離れるなど回避する

等の対応をすることですが、ストレスそのものに働きかけるので実行が難しいということが難点です。

②情動焦点コーピング

ストレッサーそのものに働きかけるのではなく、それに対する考え方や感じ方を変えようとする方法です。情動処理型コーピングや認知再評価型コーピングが挙げられます。

a.情動処理型コーピング

情動処理型コーピングはストレッサーによって生じた悲しみや不安、怒りなどの感情を誰かに話すことなどで気持ちの整理や発散をする方法です。

ストレッサー自体を変化させることが難しい場合はそれを家族や友人、職場の同僚に話すことでストレッサーによって生じた不快な感情を処理していきます。自分の中にある感情を言語化することで整理もできますし、話すことによって発散することが期待できます。

また近しい人間に話すのを躊躇する場合などはカウンセリングや診察場面で感情を出すという手段も選択肢に入ってくるでしょう。

ストレスを感じている際に整理ができておらず何が原因か自分でも分からない場合があります。大人でもそういった方はおられますが、子どもの場合は自身の感情や気持ちを整理することが難しいことが多く誰かに話すことで感情の処理が可能になることはよくあることです。

b.認知的再評価型コーピング

認知再評価型コーピングはストレッサーに対する「認知」すなわち感じ方や捉え方を変化させることでストレスを軽減させる方法です。

落ち込んでいる時や余裕がない時はついつい些細なことでもネガティブに感じてしまいがちです。そういった時にはその出来事が起こったときに自分の頭に浮かんだ考えが妥当かどうか考えてみることで自分の認知のパターンに気付いていくことが可能になります。こういった時に次につながる現実的な別の考え方を導きさせれば気持ちが楽になってきます。

「他の人だったら、どんなアドバイスをしてくれるだろう」「もし元気な時の自分だったらどのように考えるだろう」など第3者の視点に立って考えてみるのもよいかもしれません。

③ストレス解消型コーピング

ストレッサーを感じたときではなく、感じてしまった後に、ストレスを身体の外へ追い出したり、発散させたりする方法です。 

気晴らし型コーピングとは買い物をしたり美味しいものを食べるなど、自分の好きなことを行って気分転嫁を図ることでストレス解消を行う方法です。

これは普段私たちが起こっているストレス発散と呼ばれるものと同じような方法です。 これはストレスの原因を根本的に解決することはできませんが、比較的簡単に気分がリセットでき、ストレスを軽減する効果があります。

 

 

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