「塩分を減らせば健康な食事」と短絡的に言う人が多いのですが、事情はもう少し複雑です。
そもそも「減塩と血圧の関係」自体が、そんなに関係が強くないことをご存じですか?
実は、塩分摂取量と平均寿命の間の相関はないのです。日本で平均寿命が延び始めたのは1970年代ですが、この時代は日本の高度成長期に当たっていて、それまで塩蔵などでしか保存できなかったものが冷蔵庫などの家電製品の普及に伴って全国的に塩分摂取量が下がってきた時代です。
塩分摂取量が低下する前から、既に日本人の平均寿命は延長してきているのです。
高齢老人の高血圧の患者さんや、塩分感受性の高い人では、減塩をすると一定の降圧がみられるケースがあるのは確かなのですが、多くの人では、減塩をしたからといって血圧が目に見えて下がることはありません。平均して1gの減塩をしても低下する血圧は0.1~1mmHg程度ですから、「高血圧にならないように減塩をしましょう」というのは、正しいとは言えないのです。
それにもかかわらず、私たちのクリニックでは「減塩をしましょう」と言っています。なぜでしょう?
それは、塩分が「強すぎる味覚」だからです。
生き物は長い間、自然界から十分な塩分を摂取することに苦労してきました。「敵に塩を送る」という言葉があるように、とても長い間、生命にとって塩は生存のための貴重な資源だったのです。
このため、私たちの味覚は塩に対して貪欲です。塩分は他の味覚を容易に押しのけてしまいます。
味は、甘味、苦味、酸味、塩味、うま味の基本5味から構成されていますが、子供は酸味、苦味を嫌います。動物にとって酸味は腐敗物の味、苦味は避けるべき味だからです。辛味は痛覚で感じるので基本5味には入れません。辛味は刺激性の強い危険な食べ物の味だったので、子供は嫌います。
すぐにエネルギーになる糖分の甘味、タンパクの原料になる良質のアミノ酸のうま味はもちろんですが、それ以外の味は塩味しかないのです。だから、子供は塩味と甘味の強いものが大好きなのです。だって、それしかわかりませんから。塩味の強い食べ物は魅力的なのです。
子供は塩味、甘味、うま味しか魅力的な味を持たないため、塩味の濃いもの、甘味の濃いものを好みます。
そして、より塩味、甘味の強いものへとエスカレートしていきます。大人になってもその延長線上で味を感じます。
子供がどっさりうま味調味料を振りかけることがありますが、これも同じことです。単調な味だけに頼っているとより強い刺激を求めていきます。塩分が怖いのはこの点です。
私たちは美味しい自然の味を感じるために、減塩をお勧めしています。自然の材料の美味しい味を感じていただくことで、使う食材の幅が広がります。そしてそれは、食物繊維の多い野菜を食べることや、魚や肉をバランスよく食べることへとつながります。
基本5味の仕組みさえわかれば減塩はそんなに難しくありません。塩分の刺激を他の味(甘味、うま味、酸味)で置き換えてあげればよいのです。
お出汁を少し濃く取ってあげるだけで、あまり塩分を加えなくても美味しくいただくことができます。
あまじょっぱい味はみんな好きですよね。塩味の代わりに少し甘味と酸味、うま味を加えてあげることで美味しいドレッシングやソースを作ることができます。このようなソースやドレッシングを使った料理は、材料の味を楽しむこともできるので、いろいろな食材に応用が利きます。
私たちが健康食・美容食と言ってお勧めしているレシピの多くはこのような仕組みです。
私たちのクリニックではこのような考え方で作ったレシピで作った料理の試食会やレシピのご紹介もしています。
材料は、普通に家にあるお酢や油、お醤油、砂糖、マヨネーズ、トマトケチャップなどです。特別な商品が必要なわけではありません。
どなたでも今日から健康食・美容食をご自宅でおつくり頂けるようにご紹介しています。
ぜひ一度、私たちの試食会にご参加いただければと思います。