最近よくアンチエイジングという言葉を聞くようになりました。アンチエイジングというと、どのような感じを受けますか?
「アンチエイジング効果で若々しくいたい」とか、時には「アンチエイジング効果で赤ちゃん肌に若返る」なんていう広告も見かけますが、大きな誤解です。
アンチは「抗」、エイジングは「加齢」という意味ですから、「抗加齢」という意味になります。英語では「anti-aging」と言っても通じることは通じますが、「life extension」と言った方が通じると思います。Life extension medicineは、「長生きのための医学」であって、若返りの医学ではありません。「長生きをするために健康に過ごして病気を予防するためや病気の進行を抑制するための医学」という意味であって、「美容や若返りのための医学ではない」のです。日本抗加齢医学会の定義でも「元気で長寿を享受することを目指す論理的・実践的科学」とされています。
残念ですが、現時点では、若返りのために有効な方法や医薬品はありません。ましてや若返りのための方法など誰も知りません。アンチエイジングを「若返りの秘法」のように宣伝しているのは完全なまやかしです。
健康で長寿を全うするためには、体の部品をより長く使うことが大切になります。そのためには、
1.適度な運動による筋肉量の維持・体力つくり
2.栄養バランスの整った食事管理
3.疾病の予防とコントロール
が大切です。
「老化は病気だから治療すればよい」とか言うことを書いた本やサイトもありますが、デタラメもいいところです。残念ですが、老化は生理現象であって病気ではありませんから、老化自体を治療する方法はありません。部品交換をすることもできません。
「この注射をすれば元気になりますよ」
「この薬を飲めば若返りますよ」
「この化粧品を塗れば若い頃の肌に戻りますよ」
なんていう広告は信用しないでください。そんな簡単な方法で若返りできる訳がないのです。「日頃からきちんと体のメンテナンスをする」という、とても地味で当たり前のことが、アンチエイジング医学にはとても重要なのです。
最近流行の「断薬」も同じです。不必要な薬を減らすのは当然のことですが、必要な薬まで「断薬」してしまっては本末転倒です。
よく「血圧の薬を飲み始めたら一生飲まなくてはいけないから、今は飲みたくない」という方がいらっしゃいますが、大きな間違いです。血圧の薬を始めても、血圧の薬を途中で止めることができることもあります。でも、そのためには、「なぜ血圧が高くなったのか」を理解して、その原因となった生活習慣や病気を治さなくてはいけません。太りすぎや運動不足、塩分や脂肪の多い食生活が原因で血圧が高くなってきているのに、その生活改善をせずに「薬だけやめたい」というのは無理です。薬を飲んで血圧をコントロールしている間に生活改善を行うことで、薬をやめるための準備をしていかなくていけません。こうして、「体の部品をより良い状態で長く使う」ことがアンチエイジングなのです。
アンチエイジング医学は若い時から始める必要がある、とても長い時間がかかる方法なのです。
当院では生活習慣の改善のお手伝いもしております。生活習慣の改善のためには、無理な方法で性急に変化をさせようとしても長続きしません。「明日から魚だけにして肉は食べない」なんていうことは無理です。続くわけがありません。
日本の食卓に並ぶメニューの種類は世界一豊富です。日本料理はもちろんのこと、イタリア料理、フランス料理、中華料理、アメリカ料理、インド料理…こんなに毎日の食卓に並ぶ料理の種類が多いのは世界中を探しても日本だけです。アメリカで暮らした方はわかるかもしれませんが、家庭で出てくる料理はステーキ、キャセロール、ミートボールスパゲティ…ピザは宅配だし、中華料理を家で作ることなんてありません。バリエーションが本当に少ないのです。日本の家庭料理のメニュー数は莫大ですから、生活改善のためのバリエーションも作りやすいのです。
無理をせず、長続きする方法を生活の中に自然に取り入れていくことが、もっとも重要なアンチエイジング医学の方法なのです。