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貧血の話

貧血の話

「学校の朝礼で貧血になって倒れた」なんてよく言いますが、学校の朝礼などで倒れる貧血はいわゆる「脳貧血」あるいは「立ちくらみ」といって、過度の緊張状態、精神的ストレスなどが誘因となって自律神経である交感神経-副交感神経(迷走神経)のバランスが崩れて血圧低下や徐脈を起こして、一過性に脳の血流が少なくなることによっておこるもので血管迷走神経反射といいます。

大人の場合には「排尿失神」といって、起立したまま排尿をする際やその直後に失神症状になることがあります。典型的には、「限界近くまで我慢していた尿を一気に排尿した後」に起きます。膀胱が満タンになっている状態では交感神経が活発になり、血管が収縮しているために血圧が高いのですが、それを一気に排出すると、迷走神経反射で副交感神経が活発になり、血管が拡張されて血圧が下がり、また脈拍が極端に低下して徐脈になることで脳貧血を起こして失神してしまうのです。忘年会や新年会で、酔っぱらってトイレでぶっ倒れている男性はこの「排尿失神」が多いですね。

医学的にはこれは「貧血」とは言いません。

医学で言う貧血は、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンという物質が少なくなった状態です。ヘモグロビンは血流に乗って酸素を運ぶ働きをしているので、貧血になると運動能力の低下が生じて息切れや動悸、立ち眩みなどが発生します。

WHOの定義では血液中のヘモグロビン値が男性で13.0g/dl以下、女性で12.0g/dl以下になると貧血といいます。

さて、貧血に関係する検査としては、MCVMCHというものがあり赤血球恒数といいます。人間ドックや健康診断の報告書にも載っていると思います。赤血球恒数は赤血球の大きさや濃さを調べて、貧血の種類を判別するために使われる大切な指標です。

ヘマトクリットというのは、「血液に占める固形成分の割合(%)」のことです。血液の固形成分の大半は赤血球ですから、事実上「血液中に占める赤血球の体積の割合」、つまり、「赤血球を全部集めた時の体積」を意味します。

このヘマトクリットを赤血球の数で割ると、「赤血球1個当たりの平均的な大きさ」を示す指標が得られます。これをMCVといいます。

ヘモグロビンは赤血球中に含まれるヘモグロビンの量ですから、これを赤血球数で割ると「赤血球1個当たりの平均ヘモグロビン量」が得られます。これをMCHといいます。

最後にヘモグロビンをヘマトクリットで割ると、「単位ヘマトクリット当たりの平均ヘモグロビン量」、つまり、「赤血球の平均ヘモグロビン濃度」が得られます。これをMCHCといいます。

MCV:   85102fL 

ヘマトクリット÷赤血球数 = 赤血球1個当たりの平均的な大きさ

MCH:   2834pg

ヘモグロビン÷赤血球数 = 赤血球1個当たりの平均ヘモグロビン量

MCHC:  30.235.1%

ヘモグロビン÷ヘマトクリット = 赤血球中の平均ヘモグロビン濃度

 これを使って貧血を分類するのですが、MCVとMCHの2つの組み合わせで

MCV 高値:大球性   正常:正球性   低値:小球性  

MCH 高値:高色素性  正常:正色素性  低値:低色素性

を意味しているので、それぞれ大球性高色素性貧血、正球性正色素性貧血、小球性低色素性貧血の3つに分類します。

 

MCV高値

MCHMCHC正常

大球性高色素性貧血

ビタミン欠乏性貧血

葉酸欠乏性貧血

過剰飲酒

MCV正常

MCHMCHC正常

(でも貧血の場合)

正球性正色素性貧血

再生不良性貧血

腎性貧血

溶血性貧血

急性出血

MCV低値

MCHMCHC低値

小球性低色素性貧血

鉄欠乏性貧血

慢性炎症

鉄芽球性貧血 等

 

大球性貧血の代表は悪性貧血といい、ビタミンB12欠乏によって生じます。何らかの原因でビタミンB12を消化管から吸収できなくなるために生じます。貧血症状に加えて、舌炎(舌のザラザラがなくなる)、味覚障害、食欲不振、神経症状、慢性胃炎などの多彩な症状を伴うことがあります。軽度の黄疸を認め、LDHが上昇し、ビタミンB12値は低下します。抗内因子抗体や抗壁細胞抗体という検査が陽性になることがあり、骨髄検査では、赤血球だけでなく、白血球や血小板のもとになる細胞にも形態異常が生じます。

胃切除後の貧血も悪性貧血に似ていますが、身体のなかには数年分のビタミンB12の蓄えがありますので、手術後数年を経て忘れた頃に発症します。

小球性貧血の代表は鉄欠乏性貧血です。疲れやすい、動悸がする、息苦しい、顔色が悪いなどの貧血症状を自覚することもありますが、徐々に進行することが多いので、本人は慣れてしまって自覚症状に乏しく健康診断で指摘されるまで気付かないこともあります。鉄欠乏状態が長く続くと、爪がスプーン状に変形したり舌炎を起こしたりします。血清鉄は低値、不飽和鉄結合能は高値、フェリチンは低値を示します。

鉄欠乏性貧血では鉄分が不足している原因(=真の病気)をさがすことが重要です。胃や腸の病気のために出血が続いている可能性があるので、便潜血検査や消化管の内視鏡検査も重要です。女性では子宮筋腫等による不正出血が原因になることもあります。また、成長期の中~高校生も鉄欠乏性貧血をきたすことがあります。

正球性貧血は感染症、慢性炎症、悪性腫瘍(種々の癌、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など)、慢性腎不全、慢性肝疾患、内分泌疾患などに伴って発症します。

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