今月のお話は花粉症です。
12月なのに花粉症?早すぎない?
と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、12月は花粉症治療にとって、とても大切な月なのです。
花粉症は花粉を原因とする目や鼻のアレルギーです。
花粉症の約70%はスギ花粉症だと考えられています。日本は全国の森林の18%、国土の12%をスギが占めているので、花粉症の約70%はスギ花粉症だと考えられています。関東や東海地方ではスギが中心なのですが、関西ではスギだけではなくヒノキも植林されており、ヒノキも要注意です。一方、北海道にはスギやヒノキが少なくシラカンバ属(カバノキ科)が多いという特徴があり、沖縄にはスギがありません。
スギは年初から飛び始めて3月にピークを迎えて5月くらいまで飛散しますから、年明けすぐごろから症状を訴える方が出始めます。
ヒノキはスギよりも若干遅れて飛び始めて4月にピークを迎えて6月くらいまで飛散し、北海道ではシラカンバ属の飛散が5~6月にピークを迎えます。このため、長い方では花粉症がGW明け~梅雨の始まりぐらいまで半年続きます。
秋の花粉症の原因として知られるキク科のブタクサ属・ヨモギ属、クワ科のカナムグラは8~10月に飛散します。また、イネ科は北海道で6~9月に飛散しますが、本州以西ではほぼ1年を通して飛散しています。
花粉症の治療は第二世代抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、化学伝達物質遊離抑制薬などの内服薬を使うことが多いと思います。薬の名前で言うと
抗ヒスタミン薬:レボセチリジン(ザイザル)、ビラスチン(ビラノア)、
デスロラタジン(デザレックス)、ルパタジン(ルパフィン)、
オロパタジン(アレロック)、フェキソフェナジン(アレグラ)、
エピナスチン(アレジオン)、ベポタスチン(タリオン)など
抗ロイコトリエン薬:プランルカスト(オノン)、モンテルカスト(シングレア/キプレス)など
化学伝達物質遊離抑制薬:クロモグリク酸ナトリウム(インタール)、トラニラスト(リザベン)、
ペミロラストカリウム(アレギサール)など
がよく使わるものですね。
抗ヒスタミン薬は鼻水やくしゃみによく効く半面、鼻づまりには効果が弱く、また多かれ少なかれ眠気やだるさをが出てしまいます。このため多くの抗ヒスタミン薬には「車の運転や機械の操作には注意」、または、「車の運転や機械の操作はしないこと」という注意事項が書いてあります。
しかし、ビラスチン(ビラノア)、デスロラタジン(デザレックス)、フェキソフェナジン(アレグラ)、ロラタジン(クラリチン)の4剤だけはこの注意事項がありません。眠気やだるさをどうしても避けたい時にはこの4つの薬の中から選ぶと良いです。
抗ヒスタミン薬の薬とのしての強さは成分によってかなり差があり、最も弱いものがフェキソフェナジン(アレグラ)です。おおむね眠気の強さと効果の強さは比例するのですが、ビラスチン(ビラノア)だけは「効果が強いのに眠気が少ない」という特徴があります。ただ、このビラスチン(ビラノア)は、空腹時に服用しないと効果が弱くなってしまう、という欠点もあります。
抗ロイコトリエン薬は喘息などにも使う薬ですが、鼻づまりにはよく効きます。プランルカスト(オノン)は1日2回服用、モンテルカスト(シングレア/キプレス)は1日1回服用なので、生活スタイルに合わせたものを選ぶと良いです。
点鼻薬には点鼻ステロイド薬と血管収縮薬があります。点鼻ステロイド薬は副作用がとても少なくて、アレルギー反応を抑えて鼻汁、鼻閉に効いてくれるので治療の基本になるのですが、毎日きちんと使って、数日たたないと十分な効果が出てきません。
点鼻ステロイド薬は鼻水がでたりした時にだけ使っても効果の出ない薬なのです。よく「点鼻ステロイド薬をもらったけれど効果がないから使わない」という方がいらっしゃいますが、使い方が悪いことがほとんどです。症状があってもなくても毎日きちんと使い続けると数日で驚くほど効果が出ます。
これに対して血管収縮薬は「血管を収縮させて鼻水などを止める」作用が主なので、使えばすぐ効きます。ただ、効果の持続時間が短くて1日に何回も使わなくてはならず、しかも「使い続けていると効果がだんだん弱くなってくる」という欠点もあります。市販薬で容易に手に入る製品があるのは便利ですけれど。
私のクリニックでは、点鼻ステロイド薬を治療の中心にしています。
点鼻ステロイド薬にもいろいろと種類があるのですが、フランカルボン酸フルチカゾン(アラミスト)という薬は、点鼻薬なのに目の症状も軽くなる、という特性がある上、1日1回 各鼻腔に2噴霧ずつでよい、という手軽さがあるので便利です。もともとはグラクソ・スミスクラインが販売していたのですが、最近はジェネリックが販売されて安く手に入るようになりました。点鼻薬は鼻に噴霧する容器の形状も重要なので、ジェネリックは中身はともかく容器が使いにくかったりするのであまりお勧めしていないのですが、武田テバという会社が出しているアラミストのジェネリックは、AG(オーサライズドジェネリック)といって、グラクソ・スミスクラインの製品をそのまま武田テバがジェネリックとして販売しているので、容器もオリジナルのままですから、私のクリニックの処方箋には「武田テバのフランカルボン酸フルチカゾン点鼻薬」と指定しています。
花粉飛散期にはこれだけでは十分な効果が出ないことが多いので、その場合には抗ヒスタミン薬を追加で服用してもらっています。抗ヒスタミン薬の飲み薬は飲めば15~30分で効きますから、「今日はひどいな」と思ったときに飲めばよいからです。この組み合わせにするだけでも眠気やだるさの問題は大分解決できます。
この他に根治療法として減感作療法いうものがあり、スギ花粉を使った薬を毎日舌の下に入れて服用することで、体の免疫機構を変えてスギ花粉に対するアレルギー反応が起きないようにするものです。舌下免疫療法とも言い、効果が安定するまで3年ほど続ける必要があるのですが、初めて2~3か月で驚くほどの効果が出ることが結構あります。
ただ、この舌下免疫療法は「スギ花粉飛散期に新たに開始することはできない」ので、1~5月には新たに治療を開始することはできません。つまり、
舌下免疫療法を始めたければ12月が最後のチャンス!
ということになるのです。
受験などで「1~3月の眠気が大敵」という方は12月に駆け込みで舌下免疫療法を開始する方も多くいらっしゃいます。
ところが…
実は舌下免疫療法に使う製剤を作るためのスギ花粉の収集量を超える需要がおきてしまったので入手困難になっています。舌下免疫療法は最初は2000単位製剤を使って開始して、その後は5000単位製剤で治療を持続する必要があるのですが、5000単位製剤を作るのが精いっぱいで、2000単位製剤が全く製造できていません。そのため、今年は舌下免疫療法を開始するのは難しいかもしれません。
年明けにはスギ花粉の飛散が始まります。今年は暖冬のようですから、スギ花粉の飛散が早くから始まる可能性が高いと思われますので、どうぞ早くからの準備をお願い致します。