今日は不思議な日で、10人ぐらいの方から全く同じ質問を受けました。
「インフルエンザワクチンは3か月しか効かないから、できるだけ遅く打った方がいいんじゃないんですか?」
えっ!?
インフルエンザワクチンが3か月しか効かない、なんて誰が言ってるんでしょう?
確かに1970年代とか80年代とかの論文にはインフルエンザワクチンは3か月ぐらいしか有効期間がない、と書いてあるものがありますが、現代の知識としてはインフルエンザワクチンの有効期間は5か月ぐらいはあると考えるのが妥当です。
日本の季節性インフルエンザワクチンは一度承認を取れば臨床試験を繰り返し行うことはありませんが、海外の季節性インフルエンザワクチンは毎年一定規模の臨床試験をやって効果を確かめています。
また、海外では点鼻やVLP、アジュバント添加型などの新しいタイプのワクチンの治験も行われており、比較対象薬として既存のワクチンが用いられているので、ワクチンの有効期間を知ることができます。
私は何回も海外の季節性インフルエンザワクチンの治験の企画・実施を行ってきましたが、治験観察期間はワクチン接種後6か月ぐらいに設定してあることが普通です。そして、このワクチン接種後観察期間中のインフルエンザ感染率の経時推移を調べてみても、経時的にワクチン有効率が低下するようなデータは得られません。たとえ自然感染率の変化で補正をかけたとしてもワクチンの有効性が変化しているようなデータは得られず、インフルエンザワクチンは接種後5~6か月の間は有効性を保っていると考えられます。
ワクチンで免疫されると、体はインフルエンザウイルスに対する抗体を作ることを覚えます。この状態で自然界のインフルエンザウイルスに接触すると、「ナチュラルブースト(自然増強)」といって、体の免疫の状態を強めます。インフルエンザワクチン接種後にインフルエンザ流行期に突入するので、ナチュラルブーストが働いて免疫力は低下せずにインフルエンザ流行期間中、ワクチン効果が持続するのだと考えられます。
インフルエンザのピークは11月~3月ぐらいですが、ワクチンを打ってから抗体が形成されて免疫機構が有効に働くようになるまで2週間~4週間かかることとを考えると、インフルエンザの流行が早くやってきたときに対応するためにも、10月~11月ぐらいにはインフルエンザワクチンを打っておいた方が良いことになります。
特にお子様の場合にはインフルエンザウイルスに接触した機会が少ないので、生後6ヶ月~12歳では2回接種が必要です。1回目と2回目の接種間隔は2~4週間あける必要があり、4週間あけるともっとも高い効果を得ることができるので、10月か11月に第1回目接種、11月か12月に第2回目接種を行う必要があります。
「インフルエンザワクチンの効果が3か月で消えてしまうからできるだけ遅く打った方が良い」というのは大きな誤解なのです。
また、11月中旬を過ぎるとインフルエンザワクチン接種希望の方が一気に増加しますので、ワクチンの量が足りなくなる恐れもあります。
日本では妊婦の方の中にはワクチン接種を避ける方もいらっしゃるようですが、インフルエンザワクチンは胎児に影響を及ぼさないことが確認されています。抗インフルエンザ薬を使うことの方が胎児には危険ですので、妊娠初期を除いて妊婦の方はできるだけインフルエンザワクチンを打っておくことが世界的には推奨されています。
ご高齢の方や基礎疾患のある方、小さなお子様やお母さま、妊婦の方はできるだけ早くインフルエンザワクチンを接種なさった方が良いと思います。