ヒルドイドは2014年から急激に処方が増加した薬です。
2014年のある時、突然SNSで「ヒルドイドが優れた保湿能力を持っている」という記事が駆け巡りました。その後美容医療・皮膚科などでの処方が激増したのです。今では「保湿剤」だとか、「美容クリーム」だとかいう言われているヒルドイドですが、一言でいうと、ブロガーやSNSが作り上げたデタラメです。
ヒルドイドに含まれている「ヘパリン類似物質 Heparinoid」は「ムコ多糖(グルコサミノグルカン)」と呼ばれる多糖類の一種です。ヘパリンというのは、同じくグルコサミノグルカンの一種で、血液を固まりにくくする作用があるので、血液凝固阻止剤として臨床的に用いられています。ヘパリン類似物質は、ヘパリンと同様にヘパリン結合蛋白と相互作用する特性があります。ヘパリン類似物質には動物性のものと植物性のものがあり、動物性のものとしては軟骨に含まれるコンドロイチン硫酸、軟骨や角膜に含まれるケラタン硫酸、昆虫の殻のキチン、アフリカマイマイの粘液に含まれるアカラン硫酸などがあります。植物性のものとしては、海藻のネバネバの成分フコイダンが有名ですね。
いずれも高分子なので保水性があるためヌルヌルしており、水分が蒸発しにくいので水分保持時間が長くなるため、保湿剤 moisturiserとして化粧品などにも使われていますが、時間が経つと容易に乾燥してカピカピになります。この過程で分子が縮むので、皮ふに塗ると皮膚がピンと張ったような感じがするため、化粧品に用いられることが多いのです。保湿性の持続力はそう長くは持続しませんし、水分は皮ふの角質層の外側にあるだけなので、皮ふに水分が浸透することもありません。
皮ふに対する保湿剤は、1)ワセリンなどの軟膏基剤、2)ヘパリン類似物質、3)尿素剤、4)ビタミンA油性剤の4種類あります。
ワセリンなどの軟膏基剤は一般的には、それ自体には保湿性はなく、皮ふを覆って皮膚からの水分の蒸発を防ぐことによって保湿性を発揮します。ヘパリン類似物質も同様に水分を保持して保湿性を発揮するので、軟膏基剤とヘパリン類似物質については、塗布前に皮ふが十分に潤っていることが必要です。
尿素は皮膚の天然保湿因子の一種なので、塗布することで皮膚の保湿量そのものを増やす働きがあります。ビタミンAは皮膚のグルコサミノグリカンの産生量を増やす働きがあり、皮ふの保湿量を増やします。ただ、尿素は角質を溶かす作用もあるので、長期に使うと刺激性があるので注意が必要です。
さて、ヘパリン類似物質ですが、皮ふの血行を促進したり、炎症を沈めたりする作用があることも知られています。ヒルドイドの本来の作用はこちらの方で、保湿性自体はおまけみたいなものです。ご存じのとおりヒルドイドは軟膏やクリームの形状で製剤化されていますから、軟膏基剤の保湿性能より若干良いかな?ぐらいの程度です。そんなに高い保湿性能を持っている訳ではありません。はっきり言って、薬局で買えるニュートロジーナのディープモイスチャーローションの方が保湿性ははるかに高いです。
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また、ヒルドイドには血行促進作用があるため一定程度の皮膚の刺激性があるので、乾燥するにつれて皮ふにピリピリとした刺激感がでます。また、水分保持力自体はワセリンやグリセリンに劣るため、割と早く乾燥してパリパリした感じになります。このため、アトピー性皮膚炎や軽い乾燥肌の方々は「なんかかゆくなってきた」「なんか乾燥してきた」と感じるため、1日に何回もヒルドイドを塗るようになります。
はっきり言っておきますが、「悪循環」です。
毎月大量のヒルドイドを使っていらしたのに、一定期間ステロイドやJAK阻害剤で皮膚をきちんと修復しながら、丁寧に保湿をしていただくことでヒルドイドを全く使わないようになった方もいらっしゃいます。
最後になりますが、ヒルドイドが「美容に効く」とか、「保湿剤として使う」と信じているのは日本(とおそらく韓国)ぐらいです。世界標準の常識から言えば、ヒルドイドは「皮膚にあざができた時の治療薬」程度の薬でしかありません。私は海外での仕事も長くしておりましたし、米国の皮膚科用剤の開発会社と一緒に仕事もしていましたが、ヘパリン類似物質が「保湿剤として有効」だと考えている人は誰もいませんでした。世界的には「ヒルドイドは保湿剤としては使わないのが当たり前です」。
また、白人の皮膚の乾燥日本人の比ではありません。本当にガサガサになります。そこにヒルドイドを塗ったらどうなると思いますか?全く保湿はされず、かえってガサガサが悪化して痒みがひどくなります。本当の意味での保湿性能を持っていない証拠です。そして、これが、海外ではヒルドイドが保湿剤として(あるいは美容クリームとして)用いられない最大の理由です。
残念ですが、ヒルドイドは美容クリームでも優れた保湿剤でもありません。SNSのデタラメ美容情報にはくれぐれもご注意ください。