アンジェスのコロナ対応DNAワクチンの開発中止が発表されました。
『大阪産ワクチン』開発中止…期待を寄せた吉村知事「チャレンジしないと成功もない」 (msn.com)
“大阪産ワクチン”の開発を断念 今後は変異株に対応する新たなワクチン開発へ (msn.com)
いまさら何を言っているのか、というレベルの話ですが、このワクチンがうまくいくはずもないのは、医薬品開発評価のプロの目からみれば、十分すぎるほどわかっていた話です。
日本でこういう技術がうまくいかないのは、
あまり実用可能性が高くない技術を「世界中で自分だけがやっている技術だ」と宣伝し、
「お金を集めるために宣伝塔になっている人」と「その技術が正しい方向に向いているかどうかを検証する人」が同じ人
なので、うまくいくはずもない技術に多額の投資をして、その結果、
「チャレンジしなくては成功しない」と言って逃げる
というパターンが定着しているからです。
しかも2021年9月には世界初のコロナ対応DNAワクチンZyCoV-Dがインドのアショカ大学の技術で開発されすでに承認されており、「世界初のDNAワクチン」ですらないのです。
アンジェスに支払われた77億円の国からの補助金の他にも、もともと500~600円だったアンジェスの株価は、コロナワクチン開発への国からの補助のニュースを受けて2300円ぐらいまで急騰しました。開発失敗を受けて今は300円ぐらいまで落ちています。アンジェスとその関係者はこれで大分潤ったはずです。
もちろん臨床試験などを行ったのですから「補助金は返すべきだ」などとは言いませんが、補助金をもらった以上、その大まかな使途と臨床試験結果の詳細な説明は広く詳細に公表するべきです。
「mRNAワクチンの有効性を上回れなかったから」なんていう理由は、理由にもなっていない理由で、そもそも数千例程度のサイズの臨床試験でmRNAワクチンの有効性を上回る結果なんて得られる訳がありません。ワクチンの有効性評価は「プラセボ(ないしは対照薬)に比べてどれだけ発生患者数が減ったか」という抑制率を見る試験なので、プラセボ側にどれだけ「感染」というイベントが発生したか?がキーになるので、試験サイズが十分に大きくない場合にはイベント発生そのものが得られないからです。
薬の開発はきちんとした事業の評価を行わずに「やってみよう」でできるほど甘い話ではないのです。
世界中の製薬会社は鵜の目鷹の目で新しい技術を探しています。「うまくいきそうな技術」は取り合いになるのが普通です。
しかも時代はものすごいスピードで進んでいます。2~3年前に、遺伝性神経疾患と炎症性疾患の研究領域で、「おそらく日本のこの研究者が世界で一番ユニークなアプローチをしているであろう」と思う案件がありました。その研究者は成果を英文誌に発表したのですが、日本ではあまり注目されず、研究費もほとんどとれず、一歩一歩ゆっくりと研究を進めていました。ところが、外国の研究者たちは瞬くうちに研究を進めて、もうすでにそのアプローチの化合物は海外では複数の会社がすでに臨床試験に入っています。「一人一人の研究者の才覚でゆっくりと何年もかけて研究をする」ような時代ではないのです。
逆に、日本で少し注目されている技術を海外に紹介したところ、誰も興味を示さない、ということもありました。「どうして興味を示さないのか?}と聞いてみると、「そのアプローチは既にやってみたけれど、うまくいかなかったから興味はない」という返事が返ってきたこともあります。
もうすでに、日本の技術は世界トップクラスから脱落しかけているのです。
解決する方法は単純ではありません。「日本の体制が悪い」とか「少子高齢化が悪い」とか、識者や学者は自分の論説に都合の良い部分だけを強調して言いますが、実際はそんなに単純な話ではないのです。
自分の会社の宣伝塔をやって「風説の流布」をしてお金儲けをするような「研究者」モドキの変な人達に、国が税金からひねり出した補助金を差し上げて、失敗してもその責任は問わないだけではなく「よく頑張った」ってほめてもらえる、なんて良い国は世界中を探しても他にはないですよ…