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韓国梨泰院圧死事故から呼吸機能を考える

韓国梨泰院圧死事故から呼吸機能を考える

韓国の梨泰院(イテウォン)で150人以上の方が亡くなる圧死事故が起きました。

2001年に兵庫県明石市でおきた花火大会歩道橋事故など、人が多く集まるところでは圧死事故が起きることがあります。

明石の事故では11人が亡くなっているのですが、9人は小学生以下の児童、2人は70代の女性でした。

今回の梨泰院の事故はハロウィンということもあって亡くなった方は20代、30代が多いですが、死者154人の内訳をみると女性が98人、男性が56人と女性が多くなっています。

圧死というのは「胸部・腹部が圧迫されるなどして胸郭が固定されるために、呼吸運動が障害されて起こる窒息死のこと」で、「外傷性窒息死」ともいいます。胸郭というのは、肋骨や胸骨などで覆われた胸の部分のことです。

呼吸は「息を吸い込む(吸気)」と「息を吐きだす(呼気)」の2つの運動の組み合わせで行われているのですが、肺は筋肉ではありませんから、肺だけでは縮んだり膨らんだりすることができません。

そもそも酸素は水に溶けにくいので「酸素を血液に取り込む」のは非常に難易度が高く、肺の体積は3リッターぐらいしかないのに、表面積は100平方メートルにもなります。

さて、筋肉は収縮するときしか力を発揮できないため、吸気は主に横隔膜や外肋間筋の収縮で、呼気は内肋間筋や腹筋の収縮で行われていて、

  吸気:横隔膜の収縮や胸郭が広がることで胸腔内圧が陰圧になることで、肺に空気が入る

  呼気:腹直筋の収縮や胸郭を縮小させて胸腔に圧をかけて肺から空気を追い出す

ということをしています。1回の換気量は500mlほどで、吸気-呼気では胸郭が数センチ動くだけです。

このように呼吸運動は受動的なので、息を吐くと胸郭が縮みますが、外から胸郭が圧迫されていると、胸郭が膨らむことができなくなり、「肺に空気が入ってくることができなくなります。」

これを繰り返すとどんどん胸郭は押されて小さくなってしまうので空気が入ってくることができなくなり、窒息してしまいます。

このような状態を「肺胞低換気」というのですが、肺胞低換気の状態では酸素が取り込めないだけではなく、二酸化炭素が貯留します。体内に二酸化炭素が溜まると二酸化炭素の麻酔作用によって頭がぼーっとして意識がなくなり、呼吸運動が停止して死亡します。今回の事故でも立ったまま無抵抗に死亡した方が多かったのはこれが理由です。

また、心臓は「広がって心臓の中に血液を吸い込んで、心臓が縮むときに血液を送り出す」ポンプなので、心臓が広がることができなくなると血液を送り出すことができなくなり、心臓は動いているのに心停止と同じ状態になってしまいます。

これが圧死のメカニズムです。

群衆雪崩のように上から人が覆いかぶさるような状態になると、1人の体重を60kgとしても10人分の体重がかかれば600kgもの荷重になってしまうので、1回息を吐きだしたら最後、肺に空気を入れることができなくなります。

圧死を避けるためには呼吸のスペースを確保することが必要になるので、胸の前で腕を組む、とか、倒れた時には下向きに肘と膝でスペースを作る、という方法がありますが、人5人でも300kg以上の荷重になるので、筋力が弱い女性や子どもは荷重に耐えられずに押しつぶされてしまうため、呼吸スペースがなくなって窒息死してしまうのです。このため、群衆事故では女性や高齢者、子供の被害者の割合が多くなります。

このような群衆事故は転倒者が出やすい坂道や階段などの他、2つの道路が合流するY字路やT字路のように人流の逃げ場がなくなるような場所で多く発生しますし、途中で道が細くなっている場合には非常に危険です。

一度過剰な密集が発生してしまうと、これを安全に解除するのは極めて困難なので、

1)立ち止まらない

2)一方通行にする

3)流入制限をかける

などの方法を組み合わせて人の密度が一定以上にならないようにコントロールする必要があります。

今回の事故現場は、「合流路のある坂道で途中で狭くなっている」という、群衆雪崩/圧死事故が起きる条件が揃いすぎた最悪の場所でした。

コロナ禍でイベントの数が減っているため、どうしても数少ないイベントに多くの人が集まるようになってしまいます。

「群衆の中に入ってしまったら脱出するのは非常に困難で、一度胸郭の圧迫が起きるとそこから回復するのは難しい」ということを忘れず、あまりに多い混在には近づかないようにするしか、良い方法がないのです。

どうぞお気を付け下さい。

 

 

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