こんにちは!
「なぜインド変異株が東京でみつかるのですか?
誰かがインドから持ち込んだのでしょうか?
インドに行ったことがない人からインド変異株が見つかるということは、
インドからインド変異株がたくさん東京に入ってきたということでしょうか?」
というご質問を頂きました。
いえいえ、実は誰もインドから持ち込まなくても
インド変異株は東京で発生しうるのです。
テレビでも
イギリス型変異株 N501Y
南アフリカ型変異株 N501Y と E484K
インド型変異株 L452R と E484Q
とか報道されていますよね。
これを一目見て
「あ、あそこがこうなったのね!」
とは、なかなかわかりませんよね~
自然界には500種類ほどのアミノ酸がありますが、
生物のタンパク質を作っているのは20種類で、それぞれに、
アスパラギン(Asp, N) アスパラギン酸(Asn, D)
アラニン(Ala、A) アルギニン(Arg、R)
イソロイシン(Ile、I) グリシン(Gly、G)
グルタミン(Glu、Q) グルタミン酸(Glu、E)
システイン(Cys、C) セリン(Ser、S)
スレオニン(Thr、T) チロシン(Tyr、Y)
トリプトファン(Trp、W) バリン(Val、V)
ヒスチジン(His、H) フェニルアラニン(Phe、F)
プロリン(Pro、P) メチオニン(Met、M)
リジン(Lys、K) ロイシン(Leu、L)
と、3文字と1文字の2種類のコードがつけられています。
先ほどの「N501Y」の「N」はアスパラギン「Y」はチロシンを意味しており、
「501番目はもともとN:アスパラギンだったけれど、変異が起きてY:チロシン」に変化した」
ことを意味しています。
つまり、Covid-19コロナウイルスのスパイク蛋白の
N501Y は、501番目のアミノ酸がN(アスパラギン)からY(チロシン)へ
E484K は、484番目のアミノ酸がE(グルタミン酸)からK(リジン)へ
L452R は、452番目のアミノ酸がL(ロイシン)からR(アルギニン)へ
E484Q は、484番目のアミノ酸がE(グルタミン酸)からQ(グルタミン)へ
変化したということです。
さて、なんでこのような変化が起きるのか?ですが…
ウイルスや生物はタンパク質の設計図をDNAやRNAの形で持っています。
DNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)、
RNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)
の4種類の塩基で情報を保持していて、
3つの塩基で1つのアミノ酸
を表しています。
例えば、mRNAの遺伝子暗号はこのようになっています。
(表はNS遺伝子研究室(http://nsgene-lab.jp/)様のWebからお借りしました)
この表をよく見てみると、N501Yの
N:アスパラギンのコードは AAU AAC
Y:チロシンのコードは UAU UAC
です。つまり3つの塩基の組のうち、
1つ目の塩基がアデニン(A)→ ウラシル(U)に変化
すれば、
アスパラギンの代わりにチロシンが入ったタンパク質
ができてしまうことになります。
同様に、E484Kでは、
E:グルタミン酸 GAA GAG
K:リジン AAA AAG
L452Rでは、
L:ロイシン UUA UUG CUU CUC CUA CUG
R:アルギニン CGU CGC CGA CGG AGA AGG
E484Qでは、
E:グルタミン酸 GAA GAG
Q:グルタミン CAA CAG
と変化していることがわかります。
上下に合わせてあるところを見ていただくとわかるように、
塩基が1つだけ変化した結果、アミノ酸が変化した
だけのことです。
E484KとE484Qでは、E484Kの方が先に出現した変化と考えられるので、
K:リジン AAA AAG
Q:グルタミン CAA CAG
と、イギリス型変異をベースにさらに変異をした可能性もあります。
コロナウイルスは自分のRNAをそのままmRNAとして
細胞内でタンパク合成に使っているのですが、
ウイルス遺伝子のコピーは思っているよりもエラー率が高く、
コロナウイルスの進化スピードはヒトの進化のスピードの100万倍ほど早い
のです。
ヒトの遺伝子はDNAという安定した構造なので、
コピーエラーの修復機構もかなり精巧でしっかりしています。
しかし、ウイルスは小さな遺伝子しか持っておらず、しかも、
タンパク合成は入り込んだ細胞任せ、遺伝子のコピーは適当に自分でやる、
という仕組みなので、コピーエラーが発生しやすいのです。
ウイルスにしてみれば、
とにかく早くコピーを作って増殖する
ことが目的なのですから、
少々のエラーには目をつぶる
ということなのです。
まあ、そういうことで、かなり高確率にコピーエラーが発生するため、
別にインドからインド型変異株が直接入ってこなくても、
既に侵入して70%~80%を占めているイギリス型変異株から変化しても
同様の変異株が生じることができるのです。
このような変異の発生を防止する手段はただ一つ、
「感染者数の増加を抑えること」
です。
感染者数が多くなれば多くなるほど
それぞれの感染場所でウイルスはたくさんのコピーを作ります。
たくさんコピーをすればするほど、エラーが発生します。
そのエラーのうち、アミノ酸構造を変化させてしまうような遺伝子変化が生じてしまうと、変異型となります。
感染者数を少なく抑えられれば、ウイルスの変化のスピードも抑えられます。
感染防御策や緊急事態宣言などの社会防衛策で感染者数を抑えることは、
♥ 医療崩壊をしないようにする、
♥ 感染による死亡者数を少なくしたりする
ことだけが目的ではありません。
感染者数を抑えてウイルスの変化のスピードを遅らせ、ワクチンの効かない新型の変異株の出現を抑制すること
も大切な目的なのです。