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ニセ医学を見分ける8つのポイント

ニセ医学を見分ける8つのポイント

紅麹事件などの関係で、健康食品やサプリメントについてのお問い合わせを頂くことが多くなってきました。

テレビをつければ健康食品やサプリメントについての「宣伝番組」がてんこ盛りです。

また、雑誌やSNSでも、健康食品、サプリメントだけではなく美容やAGAについての「情報」が山のように書いてあります。

SNSだけで有名な謎の「専門家やインフルエンサー」は毎日謎の情報を書き込んでいます。オンライン診療だけのクリニックが何の責任もとらず、自由診療で輸入医薬品を販売しています。学者や大学教授が自分のイデオロギーで捻じ曲げた情報を、メディアでお披露目するのは日常茶飯事です。テレビをつければ芸人やタレントだけではなく、テレビタレント化した医者や教授が良く知りもしないことにデタラメなコメントをしています。

オンブズマンなどのNPOは、最近では「職業批判者」として批判を繰り返すだけで、中立的で正しい情報を提供してくれはしません。

厚生労働省などの行政は知ってか知らずか、こういう状況に手を付ける気もなさそうです。それどころか規制緩和の大義名分のもと、いい加減な根拠と安全管理体制でも販売できるサプリメントや機能性表示食品を指導も監視もせず放置しています。

こういう時こそ私たち消費者が「みずから正しい情報を見分けるための目」を持っていなくてはいけません。

私は長年、医薬品の開発や目利きとして世界中の医薬品や健康食品などの情報を見てきました。その中には素晴らしいものも、怪しいものもありました。製薬会社には様々な分野の専門家がいるにもかかわらず、怪しいプロジェクトに騙されたことも何度もあります。明らかにウソなのに世の中で広く信じられているものもあります。

その経験の中からみつけた「ニセ医学を見分ける8つのポイント」を皆さんにご紹介することにしましょう。

1)病気を治したり、健康を維持するための「簡単な解決法」はない

  「〇〇を飲めばがんが治る/糖尿病が治る/健康になる」なんていう都合のより簡単な方法は存在しません。人間の体は様々な要素の相互作用で成り立っているので、1つのサプリや食べ物で健康になったり病気になったりすることはないのです。

2)天然信仰はウソです

  「天然は良いもの、人工物は悪いもの」という「誤った信仰」を信じている方もいらっしゃいますが、全く根拠がありません。天然物であっても人工物であっても毒にも薬にもなります。天然物のトリカブトの毒やボツリヌス毒素は極めて危険な毒素ですが、附子やボトックスという医薬品の原料でもあります。紅麹のモナコリンKは天然物ですがロバスタチンというコレステロール低下剤でもあります。

3)陰謀論=政府や製薬会社は金儲けのために情報を隠しているんだ!

 新しい薬のタネを探している人や研究者は世界中にたくさんいます。例えどこかの政府や製薬会社が「貴重な発見」を葬り去ろうとしても、そんなことは不可能です。必ず誰かが見つけ出します。世界には敵対している国はたくさんあるので、ある国にとってのデメリットは対峙している国にとってはメリットになります。

私はロンドンでもアメリカでも製薬会社の経営中枢にいました。陰謀論者が信じているようなDSなんていうものは存在しません。世の中そんなに単純な善悪の論理で構成されている訳がないのです。「悪の秘密結社」や「世界的陰謀」なんていうのはマンガの中だけのできごとです。

4)体験談・肌感覚(統計学がない)

 ある物質がヒトに効果を示すかどうかは明確に分かれるものではなく、「効果を示した人」と「効果を示さなかった人」のいずれもが正規分布をとっていて、境目はあいまいです。このため、「効果を示すか、示さないか」は統計的な解析を用いる以外には方法はありません。「飲んだら効いた」とか、「使ってみればわかる」というのは、効果を演出する方法にすぎません。

5)万能薬幻想

 あらゆる病気の起こり方は異なります。すべての病気に共通した原因などはありません。つまり、1つの薬があらゆる病気に効くようなことはありえません。

6)成分信仰

 どんな有効成分であっても、含有量が少なければ効果を示さないこともあります。どんなに安全な成分であっても、含有量が多すぎれば毒になることもあります。適正な安全域が示されておらず「〇〇が含まれているから効きます」というような表現は、ただのイメージ操作にすぎません。

「量が少なければ薬になる」というのも誤りです。薬として必要な量を摂取しなければ薬の効果は出てきません。多すぎても少なすぎてもダメなのです。

7)長期服用で体質改善

 例えば漢方薬は本来急性期の治療のための医薬品であって、長期間服用することは想定されていませんでした。「長期服用で体質改善」というのは、効果がないものを長く使ってもらうための宣伝文句にすぎません。

8)唯一無二(世界で私だけが研究している)

 世界中で自分だけが研究している、というものは全部ウソです。現代の情報化社会では、可能性のある技術にはすぐに人が集まってきます。世界中にただ一人しか研究者がいないものは、「他の人に見捨てられて最後に残った一人」にすぎません。「特許があるからまねできない」ということをいう人もいますが、本当に必要な技術であれば、何十億円でも何百億円でも使用料を払って特許を使うことはごく一般的なことです。

 

代表的な「健康食品やサプリのおかしな効果」を挙げてみましょう。

ビタミンCで風邪が治る : ノーベル賞を2度受賞したライナス・ポーリングが「ビタミンCを1日3000mgとるとよい」と言ったことが広まったのですが、何の根拠もありません。ビタミンCを摂取した方が風邪にかかり難い、とか、風邪が治る、という臨床試験結果もありません(実施されたことはありますが、全ての試験で結果が出ませんでした)。

ヒト幹細胞培養液上清で若返る : 細胞培養の際に使用した培養液上清が美容皮膚科などで用いられていますが、細胞培養の際に使用したゴミ液で、成分も不均一で何の効果もありません。「サイトカインやエクソソームが含まれているから効果が期待できるのではないか?」という極めて薄い予想に基づいて使われていますが、成分も成分の濃度も均一化されておらず、効果が確認されているものはありません。強いて効果を言うとすると、皮膚がんの発生確率が上昇するだけです。

コラーゲンを食べてお肌がツルツル : コラーゲンは大分子成分なので食べたコラーゲンがそのまま吸収されることはなく、分解されてしまいます。分解吸収された「コラーゲン」が何に再合成されるかはわかりませんので、コラーゲンを経口摂取したところで、皮膚に効果を示すことはありません。そもそもあのコラーゲンは、動物の骨を煮て作った「ただの煮凝り」です。

ブルーベリーは目に良い : ブルーベリーに含まれるアントシアニンが目に良いと言われていますが、アントシアニンを多く含むのはビルベリーという野生種で、ブルーベリーにはアントシアニンはあまり含まれていません。アントシアニンがヒトで効果を示すには700~800mg/日の継続的服用が必要ですが、世界中でベリー類を最も多く食べる地方でも20mg/日程度以下しか摂取できません。ブルーベリーにはビルベリーの10分の1以下のアントシアニンしか含まれていないので、有効量のアントシアニンをブルーベリーから摂取することは不可能です。

ワクチンをうつと自閉症になる : この論文を書いたのはイギリスのウエイクフィールドという医師ですが、ワクチン訴訟をの被害者を担当していた弁護士から40万ポンド以上の大金を受け取ってこのデタラメな内容の論文を書いたことがわかっています。ウエイクフィールドは逮捕され医師の資格を抹消されています。世界中のワクチン安全性データベースを長年調べても「自閉症が起こりやすくなる」という結果は得られていません。

トマトのリコピン : リコピンは、心血管疾患や前立腺がんについてヒトで試験されていますが、どの疾患にも効果は見られませんでした。FDAも欧州食品安全機関も、「リコピンが栄養補助食品としても成分としても、皮膚、心臓、または紫外線からの視力保護において抗酸化作用を有するという信頼できる証拠はない」、としています。

赤ワインのポリフェノール : 1990年代にワインをよく飲むフランス人は長生きだ、という「フレンチ・パラドックス」として有名になりましたが、その後の研究で、ワインをあまり飲まない群は、より高齢で、男性の比率・健康に問題がある人の割合・喫煙率がすべて高く、社会経済的な地位も低い上、積極的な運動もしないという傾向が認められたため、それらの要因を差し引いたところ、両者の間の差がなくなってしまったことなどから「フレンチ・パラドックス」自体が完全に否定されています。

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