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2024年は危険な「サウナ型熱中症」にご注意ください!

2024年は危険な「サウナ型熱中症」にご注意ください!

今年は梅雨らしき雨も降らず、6月末からすでに30℃を越えて、7月に入ってからは40℃なんていう殺人的な暑さが続いています。

熱中症の危険度は暑さ指数=WBGT(湿球黒球温度)という、人体の熱収支に影響の大きい湿度、輻射熱、気温の3つを取り入れた指標で、乾球温度、湿球温度、黒球温度の値を使って計算します。

WBGTで、安全なのは21℃未満の範囲です。25℃を越えると注意、25℃を越えると警戒、28℃を越えると厳重警戒、31℃を越えると危険、とされています。これを見ても、気温40℃の世界というのがいかに危険かがわかります。

 

さて、気温40℃の世界は、今まで私たちが経験してきた気温30~35℃台の世界とは全く違います。

気温40℃の世界では、相対湿度が10%であっても夏の日照量ではWBGTは熱中症厳重警戒値の28.0℃を越えます。相対湿度が0%という砂漠の世界になってようやくWBGTは27.2度と警戒レベルになるくらいです。

日本の夏の相対湿度は70~80%が普通ですから(今日の新宿区の相対湿度は79.5%でした)、気温40℃、相対湿度80%、全天日照量0.3kw/m^2、無風の状態ではWBGT 39.5℃と、屋外活動は危険域になります。このレベルの温度と湿度の世界では、30m/secの風(トラックが横転するレベルの暴風)が吹いてもWBGTは37.8℃ぐらいまでしか低下せず危険域のままです。風に向かって歩きにくくなる強風レベルの10m/s程度の風ではWBGTは39.0℃とびくともしません。

日本の気候のもとでは気温40℃というのは「屋外活動が不可能になるレベル」の気温なのです。

そしてこのような環境下では、飲水、水分補給だけでは熱中症を予防することは不可能です。気温40℃、相対湿度80%以上の世界では、いくら水分補給をして汗をかいたとしても、汗はだらだら流れるだけで、水蒸気になって蒸散することができません。水蒸気になれないと体温を下げることができず、熱は体の中にどんどんたまっていきます。

 

たとえて言うなら「湿度80%のサウナに着衣のまま入っているようなもの」です。

ところで、サウナには湿度の高さによって乾式(湿度10%ぐらい)と湿式サウナ(湿度90~100%)があります。

海外でサウナ研究をしている医師の報告によると「乾式サウナは発汗を活性化する」のですが、「湿式サウナでは高湿度のため汗の蒸発による体温低下効果がないので42~46℃の比較的低温度でもサウナ浴に応じた体温上昇がみられる」ことから、逆に発汗の能力を低下させてしまいます。「乾式サウナは発汗を活性化し、湿式サウナは発汗の能力を低下させる」のです。

 

湿度80%以上、気温40℃、着衣という条件は湿式サウナに入っているようなものです。発汗で体温を下げることができなくなってしまう上に、外気温の方が体温よりも高いため、熱は体外→体内へと逆流を起こします。このため、深部体温はどんどん上昇していきます。

人間の体は代謝によって常に熱を発生しており、体表体温とは異なり、深部体温はほぼ37℃代で一定しています。

深部体温が37℃で、外部気温が37℃より低いのであれば、体内の熱は血流にのって体表面に運ばれ、外部気温(あるいはそれ以下)まで冷やされてから身体深部に戻ります。これにより人間は熱を放出して体温の維持調節ができます。

ところが、外部温度が40℃の世界では、体表面に流れてきた血液は40℃(あるいはそれに近い温度)にまで熱せられて体内に戻ってくるので、深部体温を放出することができず、逆に深部体温が上昇してしまいます。これがうつ熱の状態です。

 

このように熱が体内に蓄積された「うつ熱」状態になると体温が上がり、体内の代謝機能に変調をきたします。生体は深部体温が37℃ぐらいで効率よく活動できるようにできていますから、高湿度で外部気温40℃になると、うつ熱で深部体温が40℃、あるいはそれ以上にまで上昇してしまいます。すごく雑な言い方をすると、「内臓が煮えてしまう」ような状態になります。

 

これを避けるためには深部体温を下げるようにしなくてはいけません。

水分をとって汗を出しても蒸散効果による体温下降効果が期待できないのであれば、直接冷却するしかありません。

アイスノンやアイスパックのようなものをタオルや布で軽く包んでから、首に巻いたり、脇の下に挟むことで体温を下げることができます。首や脇の下は血流の多い部位なので、その部分の血液を冷却することで深部に返る熱を少しでも少なくする必要があるのです。

 

うつ熱は、帰宅した後にも家の中で起きることにも気をつけてください。外出して熱を吸収してしまった体を、帰宅後に冷やすことをしないと、深部体温は上昇したままになってしまいます。特に日中に外出した場合には帰宅時に体温が上昇していることが多く、なるべく早く体温を下げてあげることが必要です。エアコンや扇風機はもちろんのこと、低めの温度でシャワーを浴びることも有効です。

 

また、高齢者や小さいお子さんには特別な注意が必要です。

 

高齢者の方はもともと体内水分量が少ないうえに、汗をかく能力が低下していることが多いため、水分摂取をしっかりしたとしても、外部気温の影響を受けやすくうつ熱を生じやすい状態にあります。気候情報に気をつけて、気温が38℃以上に高い日中には外出しない方が良いと思います。外出後に体が熱い、ほてっているなどの症状がある場合には、シャワーで冷却したり、アイスパックを使って体温を下げるようにしましょう。もちろんエアコン使用は必須です。

 

お子さんは体が小さいため、単位体重当たりの相対的な体表面積が大人よりも大きくなっています。

1辺が1 cmのさいころの表面積は6 cm^2、体積は1 cm^3ですが、1辺が5 cmのさいころの表面積は150 cm^2、体積は125 cm^3になります。単位体積当たりの表面積は10 cm辺の大きなさいころでは150÷125=1.2 cm^2ですが、1cm辺の小さなさいころでは6÷1=6 cm^2と、なんと5倍も大きくなっています。

子どもは大人に比べて単位体積当たりの表面積が大きいので、深部体温の上昇によって簡単に体表体温が上昇します。大人に比べて子供が発熱しやすい理由の1つはこれです。

逆に、体表面積が大きいので、簡単に深部に熱を運び込んでしまいます。子供が車内に閉じ込められた時に大人に比べて耐えられる時間が極端に短いのもこのせいです。小さな子供では大人の4~5倍の速度で深部体温が上昇してしまいますから、大人が15~20分耐えられる高温環境下であっても、子供は3~4分しか耐えられません。

しかも子供は背が低いので路面からの照り返しを大人以上に効率よく受け取ってしまいますから、危険度はとても高くなります。

最近気になっているのは、自転車のチャイルドシートカバーです。雨の時には便利なチャイルドシートカバーですが、走行中はともかく、停車中にはカバー内部の温度と湿度はかなり高くなります。「ちょっとだけだから」といってチャイルドシートに乗せたまま、カバーをかけたまま炎天下に放置するのは極めて危険です。お手間でも、たとえ短い時間であっても、お店に一緒に連れて入ってお店のエアコンでお子さんの体温を下げてあげてください。

 

もうひとつ最近気になっているのは、日照量の強さに伴って紫外線量が増えていることです。お肌の日焼けを気にする方は多いのですが、目も日焼けします。直射日光が強くなり紫外線量が増加することは、白内障の危険因子です。日本人は虹彩の色が濃くて比較的紫外線の影響を受けにくいのですが、これだけ紫外線量が増えるとさすがに危険域に入っていると考えた方が良く、サングラスを利用した方が良いと思います。

サングラスを選ぶときには、UVカット率に注意してください。色の濃さはUVカットには影響しません。色の濃いサングラスを掛けると、目の周囲が暗くなって目に入る光の量が少なくなるので逆に瞳孔が開いてしまうため、結果的に目に多くの紫外線が入り込んでしまい、逆効果になります。目を守る、という意味ではUVカット率が高くライトカラーのサングラスを選ぶ方が良いでしょう。

最近は透明なUVカットレンズもありますから、小学生ぐらいであれば、日中の外出時には子供であっても透明なUVカットサングラスや、色の変わるサングラス、着脱可能なサングラスレンズを使用する方が良いと思います。

 

さて、外出先で冷たい水分を補給するのには、ペットボトル飲料が手軽ですが、ペットボトル飲料の選び方にも注意してください。

 

最近特に「熱中症予防のためにOS-1を飲むのがよい」と勘違いしている方が多いことに気をつけてください。OS-1は経口補水液という名前の通り、メーカーのホームページにも明記されていますが、「脱水症のための食事療法(経口補水療法)に用いる経口補水液です。脱水症でない方が、普段の水分補給として飲用するものではありません。」 

健康な場合に飲んでも大丈夫ですか?|よくあるご質問|経口補水液オーエスワン(OS-1)|大塚製薬工場

オーエスワンにはナトリウムとカリウムが比較的多く含まれており、また100mLあたりブドウ糖が1.8g含まれていますので、特に高血圧、糖尿病、腎疾患などをお持ちの方が、熱中症予防のためにOS-1を常習的に飲用するのは危険です。OS-1は脱水症になってから飲むものですので、熱中症予防にOS-1をお飲みになるのは、おやめください。

 

次によく使われるのがポカリスエットです。ポカリスエットは食塩相当量 0.12gのナトリウムを含んでおり、汗で失った水分や塩分(ナトリウム)をすばやく身体に補給し、身体の中に長くとどめるために適した飲みものですが、糖分含有量が6%とスポーツドリンクの中でも高いため、多飲することによる糖分負荷が大きくなります。逆に、カロリーを取ることができるので、体調不良の時の水分補給や、1時間以上の長時間の運動時のエネルギーやミネラル、水分の補給に適しています。

ペットボトル飲料の甘味成分は「果糖ぶどう糖液糖」を使うことが一般的です。果糖ぶどう糖液糖はとうもろこしや馬鈴薯、甘しょ(サツマイモ)などのでんぷんを原料に作られたものです。果糖含有率 50%以上90%未満のものを果糖ぶどう糖液糖と言います。ぶどう糖の甘味は砂糖よりも弱いので、果糖含有量が多いほど甘味を感じますが、果糖には「高温だと砂糖よりも甘みが弱く、低温だと甘味が強くなる」という特徴があるため冷たいペットボトル飲料に適しているのです。また、果糖は血糖値が上がりにくいという特徴があるため満腹感が出にくく多飲しやすく、代謝されると中性脂肪になりやすい、と言われていますから、多飲には注意が必要です。

ポカリスエットは、果糖ぶどう糖液糖だけではなく、砂糖が使用されているので、急激に血糖が上がるため体調不良時や病時の栄養補給に適しているのですが、逆に糖分負荷が大きくなる原因にもなります。運動中に飲むとパフォーマンスが落ちると言われているのもこのためです。

 

アクエリアスはクエン酸を含んでいるので運動時の水分補給に適していると言われています。含有糖分は果糖ぶどう糖液糖で糖分含有量が5%と少し少ないです。砂糖が含まれていないのでスポーツには向いていますし、血糖値の上昇がゆるやかなので熱中症予防にもよいのですが、取扱店舗が少ないのが欠点ですね。アクエリアスであっても多飲すればもちろん糖負荷が大きくなるので、飲用量には注意が必要です。

 

通常の飲料として糖分負荷の少ないものを飲みたい場合には、ミネラル麦茶やほうじ茶が良いでしょう。ミネラル麦茶やほうじ茶だけでは塩分や糖分の補給が足りないので、塩分チャージタブレットなどを併用するのがコツです。

 

ただ、最近の40℃多湿環境下では水分やスポーツ飲料を摂取するだけで熱中症予防になる、とは考えない方がよく、アイスパックを使う、など体温を積極的に下げる方法を併用してください。そして、そもそもWBGT=熱中症指数が高い日にわざわざ炎天下の外出をする必要があるかどうか、から考え直してみることもご検討ください。

40℃多湿、という環境はそれだけ危険な世界なのです。ご注意ください。

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