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7月の健康トピック 食中毒にご用心

夏も近くなって、だんだん暑くなってきました。

気温が上がってくると気をつけて頂きたいのは、食中毒と熱中症です。

今月は食中毒についてのお話です。

食中毒というと「お店で食べたものでおきる」と思われる方も多いかもしれませんが、実は家庭でも結構起きていますから、気をつけてくださいね。

 

食中毒の原因は大きく3つあります。

1つめは 細菌

2つめは ウイルス

3つめは その他

です。

 

ウイルス性食中毒は主に冬に発生します。ウイルス性食中毒の原因は、ほとんどがノロウイルスで、毎年10月~4月に集中発生します。

主に汚染された二枚貝類(カキなど)の生食が原因ですが、二次汚染された食品からの発症もあります。

ノロウイルスの感染力はとても強く、少量でもヒトの腸管内で増殖して症状を引き起こします。

増殖するまでの時間が必要なので、ウイルス摂取から発症まで1~2日の時間がかかり、下痢、嘔吐、腹痛、発熱などがみられます。

 

3つめのその他の食中毒には、動物性毒(フグ毒、貝毒)、植物性毒(毒キノコ、トリカブト、カビ)などの自然毒摂取や、アニサキスやクリプトスポリジウムなどの寄生虫によるもの、化学物質によるものなどが含まれます。

夏はキャンプやBBQのチャンスも増えるので、山から毒キノコを採ってきてしまって誤食する事故も増えます。

クリプトスポリジウムは日本では2002年ぐらいを最後に報告はありませんが、水で感染する寄生虫性食中毒です。クリプトスポリジウムは通常の浄水処理(凝集、沈殿、濾過)で完全に除去することは困難で、塩素消毒にも抵抗性なため、海外では水道水からも感染する機会があるので、海外旅行に行く機会が増える夏には注意が必要です。

天然水・湧き水として販売されている水はクリプトスポリジウムの検査をしてあり安全ですが、一方で、クリプトスポリジウムは野生動物が宿主なので、山の湧き水は汚染されていることがあるため、キャンプなどで山の湧き水を加熱せずに直接飲んだりする行為はとても危険です。

化学物質性食中毒は洗剤や消毒液などの誤混入が一般的ですが、「ヒスタミン中毒」という食中毒があることも知っておいてください。

ヒスタミン中毒は魚肉に多く含まれているヒスチジンが、ヒスチジン脱炭酸酵素をもつ微生物の働きでヒスタミンになることによっておこる一種のアレルギー反応です。ヒスチジンを多く含むマグロ、カジキ、カツオ、サバ、イワシ、サンマ、ブリ、アジなど赤身魚や青魚が時間が経つと魚肉中にヒスタミンが生成・蓄積されて、これを食べることで嘔吐などの症状のほか、じんま疹が出ます。「サバを食べたらじんま疹が出た」なんていうエピソードのは多くは食物アレルギーではなく、このヒスタミン中毒です。海外ではハムやチーズで起きることが多いようです。

一度生成されたヒスタミンは熱に安定で、加熱しても分解されません。温度が高い状況で魚肉を保存することでヒスタミンが生成されるので、保存温度を管理することが重要です。気温が高くなる夏には注意が必要な食中毒の1つです。

さて、夏の食中毒と言えば細菌性食中毒がメインですが、細菌性食中毒には、毒素型、と、感染型があるのをご存じでしょうか?

感染型細菌性食中毒は細菌に汚染された食べ物を食べて、腸管内で細菌が増殖して起こります。細菌が増殖するまでの時間が必要なので、原因となる食べ物を食べてから24時間以上、時には数日経ってから発症することもあります。感染型には、腸管内で増殖した細菌が直接悪さをするタイプと、腸管内で増殖した細菌が毒素を産生するタイプがあります。

腸管内で増殖した細菌が直性悪さをするタイプはサルモネラ菌ややカンピロバクターなどが原因です。特にカンピロバクターは火が十分に通っていない鶏肉やレバーを食べることで感染します。発熱、腹痛のほか、激しい水様下痢がみられ、季節を問わず発生します。サルモネラは腸管内にいることが多いので不適切な内臓処理で汚染された刺身やすしなどを食べると発症することがあります。海外でお寿司やお刺身を食べる時には気をつけてください。

腸管内で増殖した細菌が毒素を産生するタイプは腸管出血性大腸菌(O-157 など)や腸炎ビブリオが多いですね。腸管出血性大腸菌の感染は生焼けの肉以外にも、調理する人からの二次感染が多いことに気をつけてください。消毒・清掃が不十分は露店で加熱していない食品などを食べることで感染した事例があります。腸炎ビブリオは海水中、特に沿岸の海水中や海泥中に存在し、海水の温度が高くなる夏季に急速に増殖して、魚介類に付着して寿司や刺身から感染することが多いです。自分で釣ってきた魚の処理などには十分ご注意ください。

感染型細菌性食中毒は、いずれも細菌を殺せば発症しないので、十分な加熱をしてから食べることで防ぐことができます。逆に、十分な加熱をしていない生焼けの肉や魚からは感染する可能性があることに注意して下さい。

毒素型細菌性食中毒は、細菌が繁殖する際に生成した毒素によっておこる食中毒です。原因菌が増殖する時間が必要ないので、潜伏期間は短く、食べてから約 30 分~8 時間で発症します。嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、頭痛などがみられます。特に多いのが黄色ブドウ球菌の産生するエンテロトキシンによるものです。以前は手で握った「にぎりめし」が原因となることが多かったのですが、コンビニおにぎりの普及とともに激減しています。エンテロトキシンは耐熱性で加熱をしても分解されないため、火の通った食品であっても食中毒を起こします。

毒素性細菌性食中毒には稀ですが、ボツリヌス菌などによる事例もあります。ボツリヌス菌は嫌気性細菌なので空気(酸素)が入らない密閉された保存食(瓶詰め、缶詰など)や粘度が高く酸素の混入しにくいハチミツやいずし、スープなどで発症することがあります。ボツリヌス菌性食中毒は神経麻痺を伴う強力な症状が特徴で、死亡することも多くとても危険です。嫌気性菌による食中毒は他にはウエルシュ菌やセレウス菌によるものがあります。ウエルシュ菌は日にちのたったカレーの中などで増殖していることが多いので、給食病ともいわれることがあります。セレウス菌は焼きそば、ピラフ、チャーハンなどでの感染事例が多く報告されています。嫌気性菌はいずれも耐熱性の芽胞を作るので、調理時に加熱したとしても調理後に時間が経つと菌が増殖して毒素を産生していることがあります。

 

<食中毒から身を守るために>

  ・ 調理場内に原因菌を「持ち込まない」

  ・ 食べ物や調理器具に原因菌を「ひろげない」

  ・ 食べ物に原因菌を「つけない」

  ・ 食べ物に付着した原因菌を「増やさない」

  ・ 付着してしまった原因菌を加熱して「やっつける」

  ことが大切です。特に気温が高くなるこの季節は食物中で細菌が増殖して毒素を産生するタイプの食中毒が増加します。

  また、海外旅行やキャンプ、海あそびなどに出かける機会も増えますので、その場にあった衛生知識を学んで身を守ってくださいね。

 

 

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