今月のトピックはインフルエンザです。
今年のインフルエンザの流行は大分早くなっていますので気を付けてくださいね。
インフルエンザワクチンは最低でも接種後5~6ヶ月は有効ですのでなるべく早く打っておく方がよいですよ。
特に小児はコロナ禍の影響で過去3年間インフルエンザがほとんど流行していなかったため、インフルエンザに対する自然免疫がほぼない状態ですから、集団内に一度インフルエンザウイルスが侵入すると大流行します。
日本のインフルエンザワクチンはスプリット型で抗原性が弱いため小児のように自然感染の回数が少ない場合には数年間の間にわたってワクチンをうち続けることでようやく感染防御ができるようになるので、1回2回ワクチンをうっただけでは防御レベルが十分な状態にはなりません。ましてやコロナ禍の期間のようにインフルエンザの自然流行が停止していた状況では自然感染なんて起きようがありませんので、小児、特に低年齢児でインフルエンザワクチンの接種歴がない場合にはインフルエンザに対して無抵抗状態です。
大人で過去に自然感染歴のある方でも自然流行によるナチュラルブーストが数年間は全くなかったので、免疫レベルは相当落ちているものと考えた方が良いでしょう。スプリット型のインフルエンザワクチンはブースト能力に優れているので、成人の方も積極的にインフルエンザワクチンを接種した方がよいです。
さて、インフルエンザウイルスは直径約1万分の1mmの大きさで、抗原性の違いでA、B、C型の3つの型に分類されています。
インフルエンザウイルスの表面には、スパイクタンパクという糖タンパク質が突き出ています。A型インフルエンザウイルスには、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の二種類のスパイクタンパクがあり、ウイルスが感染を起こすための大切な役割を果たしています。HAは感染しようとする細胞に結合し、ウイルスを細胞の中に取り込む役割をします。NAは、感染した細胞とHAの結合を切って、複製されたウイルスを細胞から放出させる役割を持ちます。
A型インフルエンザウイルスのHAには16種類(H1~H16)、NAには9種類(N1~N9)あり、この組み合わせによりA型インフルエンザウイルスにはH1N1~H16N9の144種類の”亜型”が存在し、非常に多様性をもつことがわかります。
毎年流行するインフルエンザには、亜型H1N1型(HAがH1、NAがN1)、亜型H3N2型(HAがH3、NAがN2)などがあり、それぞれ「Aソ連型」や「A香港型」といわれています。そして、現在、人での感染が拡大している鳥インフルエンザH7N9型はHAがH7、NAがN9を持つ亜型、東南アジアをはじめ世界各国で発生している鳥インフルエンザH5N1型は、HAがH5、NAがN1を持つ亜型です。
B型インフルエンザウイルスにもHAとNAがありますが、それぞれ1種類しかなく、C型インフルエンザウイルスにはヘマグルチニンエステラーゼ(HE)しか存在しないため、多様性は乏しくなっています。 通常、人に流行を起こすインフルエンザウイルスはA型とB型で、C型は軽いかぜ症状のみですのであまり問題にはなりません。
A型インフルエンザウイルスは鳥をはじめ、人、ウマ、ブタ、トラ、アザラシ等に広く感染する人畜共通に感染するウイルスです。毎年冬に風邪症状をもたらす流行性感冒で“季節性のインフルエンザ”といわれるもの、鳥が感染して大量死をもたらす場合もある“鳥インフルエンザ”、そして、鳥インフルエンザウイルスが人から人へ効率よく感染するように変異し、大規模な感染をもたらす“新型インフルエンザ”、これらは全て原因となるウイルスの亜型が異なりますが、A型のインフルエンザウイルスによるものです。
インフルエンザウイルスは自分の力では増殖することができず、他の生物に感染し、感染した細胞の中で自分の遺伝子のコピーを作り増殖していきます。その結果、インフルエンザウイルスに感染したほとんどの細胞は死滅してしまいます。
また、インフルエンザウイルスの遺伝子はRNA(人の遺伝子はDNA)という遺伝子で、このRNAは誤ったコピーが発生しやすく、これを変異といいます。
インフルエンザウイルスは常にこの変異が起こっており、人の1000倍の確率で起こっているといわれています。さらに、増殖スピードは速く、1個のウイルスは1日で100万個以上に増殖します。インフルエンザウイルスは常に変異と増殖を繰り返して、徐々にマイナーチェンジしながら生き延びています。
一度、インフルエンザにかかったのに、何度でもかかることがあるのは、このように変異したインフルエンザウイルスに感染しているからです。
通常はマイナーチェンジだけの変異が、数十年に一度、フルモデルチェンジの変異を起こすことがあります。今まで鳥だけに感染していた鳥インフルエンザウイルスが、このフルモデルチェンジの変異で人に感染するようになり、さらに人から人に効率よく感染するように変化したのが、新型インフルエンザウイルスなのです。
新型インフルエンザの大流行(パンデミック)が起こり、ほとんどの人が新型インフルエンザウイルスに感染してしまうと、季節性のインフルエンザとなってマイナーチェンジを繰り返して生き延びてきます。
新型インフルエンザは、病原となるインフルエンザウイルスによって病原性の強さが異なります。
過去130年の間に起こった新型インフルエンザ [スペイン・インフルエンザ(通称「スペインかぜ」)、アジア・インフルエンザ(通称「アジアかぜ」)、香港・インフルエンザ(通称「香港かぜ」)、2009年新型インフルエンザ(A/H1N1型)] は、すべて弱毒型インフルエンザウイルスによるもので、病原性は低いものでした。
2009年に発生した新型インフルエンザは、ほとんどの人(一部の基礎疾患者、妊婦、乳幼児、高齢者などのハイリスク者を除く)が軽症で回復するという季節性のインフルエンザ並みのもので、軽度に分類されます。致死率が約0.5%のアジア・インフルエンザは中度、さらに致死率が高い(約2%)のスペイン・インフルエンザは強度に分類されます。弱毒型の新型インフルエンザは、新型インフルエンザウイルスが呼吸器や腸管にのみ感染します。
強毒型の新型インフルエンザは、まだ大流行したことはありませんが、現在、鳥の間でH5N1型高病原性鳥インフルエンザの流行が拡大しており、非常に病原性が高いことが知られています。毎年、人への感染も報告されていて、このH5N1型鳥インフルエンザウイルスが新型インフルエンザウイルスに変異する可能性が高いといわれています。この場合には、致死率が、弱毒性の過去のパンデミックより高くなると考えられます。
20世紀に起こった新型インフルエンザでは、1918年のスペイン・インフルエンザ(通称「スペインかぜ」) では全世界人口の25~30%が発症し約4000万人が死亡、1957年のアジア・インフルエンザ(通称「アジアかぜ」)では200万人が死亡、1968年の香港・インフルエンザ(通称「香港かぜ」)では100万人が死亡したと 推計されています。
このように、新型インフルエンザは10年から40年の周期で起こるといわれており、大流行の可能性が危惧されていたところ、2009年新型インフルエンザ(A/H1N1型)が発生しました。2010年8月には、世界保健機構(WHO)からパンミック終息宣言されたものの、いまだ流行は続いています。