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10月のテーマ - 労働安全衛生の基礎知識

安全衛生とは、職場における労働者の安全と健康を確保し快適な職場環境をつくるための取り組みのことです。ホワイトカラーの職場ではあまり話を聞くことはないかもしれませんが、職場の労働安全衛生のための基礎知識を確認して、災害や病気の発生に関する基礎的知識を学び、安全衛生の4つの約束を見直して、身を守り健康を維持するための安全と健康のポイントを見ていきましょう。

労働安全衛生には次の8つの項目が含まれているのですが、それを順番に見ていくことにしましょう。

1.機械、原材料等の危険性や有害性、およびこれらの取扱方法に関すること

2.安全装置、有害物制御装置または保護具の性能、およびこれらの取扱方法に関すること

3.作業手順に関すること

4.作業開始時の点検について

5.その業務開始に関して発生するおそれのある疾病の原因および予防に関すること

6.整理、整頓および清潔の保持に関すること

7.事故時等における応急措置および退避に関すること

8.その他の業務に関する安全または衛生のために必要な事項(「健康診断や健康管理」も含む)

 

安全衛生の目的は、健康を保ち、危険がない中で、安心して働くことができるようにすることで、具体的には、災害防止と、健康維持の2つです。

災害防止は、仕事に関わる要因から、負傷などしないようにして安心して働くことができるようにすることで、それを目的とした取り組みを労働安全と言います。

健康維持は、仕事に関わる要因から、病気などにかからないようにして健康を保ち、働くことができるようにすることで、それを目的とした取り組みを労働衛生と言います。

安全衛生の体系図

 

安全衛生は、安全を確保することが目的の1つです。安全を確保するためには、労働災害の起きる原因を知らなければなりません。災害は、設備機器や作業環境が不安全な状態、作業者の不安全な行動が、原因となって発生します。多くの場合、この2つの原因が重なったときに事故が発生します。職場の安全ルールを守り、設備機器や作業環境を不安全な状態にしたり、不安全な行動をしたりしないようにしましょう。

安全衛生は、健康を維持することも目的の1つです。健康を維持するためには、病気が発病する原因を知らなければなりません。病気は、栄養バランスの悪い食事や睡眠不足、運動不足など生活が不規則となっている状態、健康を損なう不衛生、不健康な環境が原因となって発病します。自分の健康は自分で守ることを心がけ、不衛生・不健康な環境状態にしないようにし、不規則な生活を正して、健康の確保と維持をしましょう。

 

1.災害発生の確率を高めるものを知りましょう

実際の災害の発生は、不安全な行動が起因となって発生することが大部分を占めます。

不安全行動には、うっかり、悪意なく無意識で起こしてしまうような過失があります。

例えば、

   ミスと呼ばれる、入力忘れなど錯覚・誤認・思い込みなどによるもの、

   失敗と呼ばれる、能力不足などから不十分な状態で終わるもの、

   失念と呼ばれる、手順などを忘れて、やるべき事ができなかったことなどです。

 

もう一つは、意図して起こす故意によるものです。

例えば、

   近道行動と呼ばれる、焦る気持ちから早く済ませるために本来の手順とは違う手順で作業してしまうこと、

   作為と呼ばれる、問題を引き起こすことを目的として、わざとルール違反をすること、

   手抜きと呼ばれる、めんどうくさいという気持ちから、本来の手順の一部を抜いて作業することなどです。

自分自身の作業姿勢、作業方法を今一度ふり返り、これら不安全行動を起こさないように、自ら改善するようにしましょう。

災害発生の原因の関係図

 

2.ヒトの限界を知りましょう

不安全行動を引き起こす原因の一つに、人の能力に対する過信や誤解があります。

例えば、人は1000回に3回ミスをします。自分はミスしないから大丈夫といった「おごり」から無理な作業をして怪我をしたりします。3/1000の確率に命をかけるようなことをしてはいけません。ミスする前提で無理のない作業を心がけましょう。

また、人は、20キロ以上あるモノを持ったり、運び続けたりすると体を痛める確率が高いと言われています。持てない重さではないと過信して、体を痛めないようにしましょう。

温度にも気をつけましょう。44度は、熱いお風呂より少し高い程度の温度です。触ることができる温度ですが、長い時間触れ続けると低温火傷となります。低い温度でも火傷をすることを知っておきましょう。

見える範囲にも気をつけましょう。60度は、人の認識限界の視野角です。60度より外側は、見えていても認識できないのです。見えているようで、見えていません。そのうえ、動いていないモノが見える範囲は、動いているモノが見える範囲よりもずっと狭くなります。モノがあることに気づかず、ぶつかったり、転んだりしないように気をつけましょう。

人間の限界を示す4つの指標の事例

 

安全衛生の基本は、ルールを守ることです。作業手順を守り、防護設備や安全装置を正しく使いましょう。自分流の作業は危険が潜んでいます。職場での通行ルールを守ることも大切です。走ったりしてはいけません。曲がり角や通路に出るとき、扉の前では、一旦停止をして安全確認をしましょう。安全を守るためには、服装も正しく着用しましょう。大切なのは、清潔で、動きやすく、安全に作業を行えるようにすることです。

安全な職場環境を作ることも重要です。職場の安全を確保するための取り組みの1つが4Sです。4Sは「整理、整頓、清掃、清潔」の4つの頭文字をとって名付けられた職場環境を良くする活動のことです。

  整理とは、要るものと要らないものを区別して、要らないものを処分することです。

  整頓とは、要るものを使いやすい場所に、使いやすいようにきちんと置くことです。

  清掃とは、身の回りのものや職場を、きれいに掃除して、いつでも使えるようにすることです。

  清潔とは、整理、整頓、清掃を維持し、誰が見てもきれいで、わかりやすい状態に保ち、きれいな状態を保とうという気持ちにさせることです。

モノが置きっ放しになっていたり、乱雑に置かれていると、つまずいたり、荷崩れを起こして怪我をする可能性が高まります。また、ただしくモノが置かれていないと、正しく作業ができず、不安全な作業を強いられることもあります。

安全のポイントを知ることも大切です。

道具は、整理整頓をして取り出したり、片付けるときに手を切ったりしないようにしましょう。正しい姿勢・正しい持ち方で、無理な体制や方向とならないように使います。使い終わったら後片付けをして、不用意に触り怪我をしたりしないようにしてください。

機械の取り扱いにも注意しましょう。例えば、回転物を操作するときは巻きこまれる恐れがありますから軍手は着用してはいけません。

重量物を取り扱うときは、男性は、1回最大55kg以下、常時体重の40%以下とし、それ以上はフォークリフトや台車を使いましょう。女性は、男性の60%程度の重さにしましょう。また、重量物を扱うときは下に手などを入れたりしないようにし、無理な姿勢で腰を痛めたりしないように注意してください。

電気装置の取り扱いでは、感電しない安全な限界は、乾いた手で30ボルト、濡れた手で20ボルト、浴槽水中で10ボルトとされています。交流電流は、50mAで感電死する恐れがあると言われています。通電部・帯電部は電源遮断を確認した上で作業しましょう。漏電対策のためにアースを忘れないようにしてください。万が一、感電事故が発生したときは、必ず電源を切ってから救出作業をしてください。

化学物質の取り扱いは、その化学物質の取り扱い条件を確認してから扱いましょう。密閉化・遠隔操作、排気、換気、保護具などによって直接の接触を遮断して作業しましょう。

温熱物の取り扱いでは、44℃で6~10時間接触すると低温熱傷を起こす可能性を認識した上で作業しましょう。80~100℃に接触すると皮膚表面が火傷します。金属などを加工するとすぐに100℃以上になります。火などの熱源がなくても高温になっている場合があるので、注意しましょう。

オフィスで危険物や有害物質を取り扱うことは少ないと思いますが、化学物質を扱う場合には注意が必要です。化学物質であれば、物質の性状や取り扱いに関する情報が書かれたSDS(安全データシート)が提供されていますので、記載された取り扱い方法に従いましょう。危険物や有害物質には、直接触れないようにし、必要に応じて、防護メガネや防毒マスクを着用してください。取り扱った後は、必ず手洗いをしましょう。また、可燃性のモノは、火気に注意してください。

工具を使うときも安全に配慮しましょう。ハンマーなどを使うときは、手からすり抜けて飛んでいかないように気をつけましょう。滑り止めのない手袋をはめてハンマーを使うのは危険です。レンチなどを使うときは、ボルトの幅とレンチの幅がピッタリと合ったものを使いましょう。レンチの幅が大きいと、力を入れて回したとき、ボルトの頭がつぶれてレンチが突然空回りして転倒などの危険があります。巻き尺などを巻き戻すときは、スケール部分が勢いよく戻ってきて顔などに当たる危険性がありますので注意してください。ペンキを塗るローラーなどから、ペンキが垂れて、目に入らないように防護メガネを使いましょう。先のとがったドライバーなどは、指などを切ったり、刺したりしないように注意してください。工具箱を持ち歩くときは、フタを閉め、ロックして、工具が飛び出したり、落ちたりしないようにしましょう。

モノを運ぶときは、背中をまっすぐにして、腰を痛めないように気をつけましょう。持ち上げるときは、急に持ち上げず、ゆっくりと持ち上げましょう。また、荷物を高く積み上げて視界を遮らないようにしてください。前が見える状態で運んでください。長尺物を運ぶときは、先端が壁や天井、機械などにぶつからないように注意してください。二人で運ぶときは、水平にして、片側に重心が偏らないようにしましょう。

リーダーを決め、指示と声がけを行い、歩く方向や荷物の上げ下げのタイミングがしっかりと合うようにしましょう。

 

安全なモノの取り扱いのポイントのリスト

 

安全な運搬方法の事例

 

定期的に危険予知訓練をしておくことも大切です。危険は、身の回りに潜んでいます。危険予知訓練で、身の回りの危険を洗い出して、対策するとともに、万が一、危険なことが発生したとき、冷静に対処できるように訓練しておきましょう。危険予知訓練は、検討対象の仕事を選定し、どのような場面、状況か想定します。日常のいつもある状態を想定しましょう。対象の仕事の想定した状態の中で、潜んでいる危険を洗い出します。様々な視点で洗い出しましょう。普段、気になっていること、ヒヤリとしたこと、ハッとしたことを出しましょう。洗い出された危険に対する対策を検討し、自分ができる対策を考え、発生したときの心構えなども考えておきましょう。 

危険予知訓練の事例

 

万が一、災害が発生したときは、まず、心を落ち着かせましょう。大きく深呼吸して、焦ったり、混乱している自分を落ち着かせてください。

次に、安全の確保です。機械を止めたり、安全な場所まで避難したりして、安全の確保を最優先にしてください。災害に遭った人を救助する場合は、二次災害に遭わないように、安全を確保してから救助してください。例えば、感電した人を助ける場合、自分も感電しないように、電源を切ってから救助してください。

そして、責任者や上司に速やかに連絡し、災害の状況を報告して、その場で責任者・上司の到着を待って、指示に従ってください。勝手に移動すると責任者があなたを探し回ったり、状況を知らない人が機械などに触れたりして、二次災害が発生してしまいます。その場で待機していてください。

 

次に、健康を維持し、元気に働くために生活の中で心がけるポイントを学びましょう。

疲労がたまると、集中力が落ちて、ミスをして怪我をする場合があります。また、疲労が蓄積して、病気になったりします。体を休めて、疲労の回復をはかりましょう。お風呂などにゆっくりと入って、肉体と神経の緊張をほぐしましょう。

精神的な疲労では、本を読んだり、散歩をしたりして気分転換をはかることも有効です。仕事や職場では、様々なストレスにさらされます。イライラしたり、食欲不振になったり、落ち込んだりして、メンタル面で不健康な状態になることもあります。心の健康を守るメンタルケアは、会社としても取り組まなければなりませんが、皆さん自身も自分の心の健康を守る「セルフケア」に取り組みましょう。ストレスが大きくなる前に、その前兆に気をつけて、旅行や趣味などによってストレスを溜めない工夫をしましょう。規則正しい生活、信頼できる人との交流も大切です。

また、食事にも気をつけましょう。インスタント食品や外食などの偏った食事は、肥満や、それを原因とした高血圧、糖尿病などの生活習慣病の原因となります。食事は健康を保ち、元気に働くための源です。栄養バランスのいい食事をとることを心がけましょう。外食が多い場合は、野菜などの副菜が入った定食を選ぶようにしましょう。朝食抜きや夜遅い食事など食生活に問題がないか、ふり返ってみましょう。
栄養バランスのいい食事をとることを心がけましょう。

さて、これら安全衛生教育というのは、製造業など特定の業種のみが実施するとの印象が強いのですが、そうではないのです。ホワイトカラーで最も危ないのが、「長時間労働で体を張って働くことが善とされ、健康は二の次三の次だ」という社風の会社です。不動産会社や 訪問販売会社など数字を追っている職場などによくみられます。絶対に数字を達成するという断固たる決意や姿勢は企業にとって大切なことですが、行き過ぎると会社自体の存続も危うくする事態を招きかねません。

1.自分の現在の業務が過重な業務負荷であると感じた場合は、ただちに上司に申し出て下さい。

2.業務外での暴飲暴食・過度の喫煙・夜更かし肥満等の私生活の乱れなどにより病気を発症したり、持病が悪化したりすることがないように、と私生活の自己管理を徹底して下さい。

3.会社の指示する健康診断は必ず受診して下さい。

4.健康診断の結果、精密検査を必要とする場合は自己の責任において受診し必要な措置を受けて下さい。

5.医師などから業務への従事を禁止された場合、体調が優れない、気分がよくないなどの場合は業務に従事してはいけません。

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