「労働安全衛生」って聞いたことはありますか?
「労働安全衛生」というのは、
「労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成するための取り組み」
のことです。労働災害や職業病の予防、適切な作業環境の提供、労働者の健康管理などを含みます。
安全衛生の目的は、企業にとって大切なリソースの一つである「人材」を守るために労働災害を防止することです。つまり、従業員が健康を保ちながら、危険がない作業環境で、安心して働ける環境を整えることです
そのために必要なのが「災害防止」と「健康維持」の2つの考え方です。負傷せず安全に働ける「労働安全」と、病気などにかからないようにする「労働衛生」が安全衛生の主軸と言えます。
労働衛生は、心と体の健康を守り、健康に働けるようにすることです。健康診断を受けたり、スポーツをすることだけではなく、働きやすい職場を作り心の健康を維持することも大切です。メンタルヘルスのお話は来月のトピックですので、来月お話ししましょう。
労働災害の防止は、具体的には、労働災害が発生しないよう、器具や設備に危険防止の措置を行ったり、放射線や高温などの健康被害が予測される作業環境で健康被害の防止措置を行ったり、建設物やその他の作業場で、清潔や安全を保つよう措置を講じたりすることです。
労働災害、というと、建設などの工事現場や高所作業や工場作業を想像する人が多いと思いますが、私たちホワイトカラーにも重要なことなのです。
1件の労働災害は、不幸や偶然が重なって突然起きる訳ではありません。「ハインリッヒの法則」というのですが、1:29:300と言って、「1 件の重大事故のウ ラには、29 件の軽傷事故、300 件の無傷事故(ヒヤリハット)がある」と言われてい ます。ヒヤリハットとは、危ないことが起こったが、幸い災害には至らなかった事象のこ とを言います。
例えば保育園で、子供が振り上げた手が他の子や人に当たったり、子供が突然動きを変えたので保育士さんにぶつかったり、手に持ったおもちゃやえんぴつを振り回したりして小さなケガをすることがあります。多くは大事に至らず「良かったね~大けがにならなくて」で済んでいるはずです。ところがその事象を放置しておくと、30件ぐらいはあざができたり医者にかからなくてはいけないようなケガが発生します。そして、いつかは「えんぴつが顔に刺さる」というような重大な取り返しのつかない事故が起きる、というのです。
重大な事故の発生を予防するためには、ヒヤリハットのうちに「想像力を働かせて」予防手段を取らなくてはいけません。
そのための方法や考え方をリスクアセスメントと言います。
安全といっても事故は起こり得ると考えられます。ただし、安全や危険にもレベルがあり、「安全であることは、起こる可能性のある事故の危険性が低いレベルに抑えられているように配慮されている」ということです。つまり、「安全」とは「受け入れ不可能なリスクが存在しないこと」ということが通常の安全の定義です。
ここで問題なのは、どの程度までリスクを下げたら安全かということです。
受容可能なリスクとは、社会環境変化と置かれている立場によって変わるものであり、フィールドでは「 安全第一」と言うことから、よりリスクの低い受け入れ可能なリスクにすべきと考えられます。
あらかじめ事前にリスクを洗い出しておき、受け入れられないリスクが存在すれば対策を施しておくという未然防止対策であり、事前の対策です。
リスクアセスメントを行う際には、「ケガの重大性」と「ケガの可能性」の2つの軸で考えるのがわかりやすくてよい方法です。
ケガの重大性の軸は、3 致命傷(死亡、永久障害、永久労働不能)、2 重症(長期療養を必要とする休業災害、完治可能なケガ)、1 軽症(手当後ただちに元の作業に戻れる微細なケガ)の3段階に分けて考えます。
ケガの可能性の軸は、レベル4 可能性が極めて高い、レベル3 時々起こる、レベル2 あまり起こらない、レベル1 可能性はほとんどない、の4段階に分けて考えます。
ケガの重大性とケガの可能性を掛け合わせたものを「リスクポイント」として、リスクの評価基準に用います。
リスクがあることがわかったら、リスクの低減措置を考えます。リスクの低減措置は次の4つの方法を、必ず(1)→(4)の優先順位と順番で実施します。
(1)設計や計画の段階における措置:危険な作業の廃止・変更、危険性や有害性の低い材料への代替、より安全な施行方法への変更等、仕事の計画段階から危険の除去や低減対策を行います。
(2)工学的対策:ガード・インターロック・安全装置・局所排気装置等の設備的対策を行います。
(3)管理的対策:マニュアルの整備、立ち入り禁止措置、ばく露管理、教育訓練等の管理的対策を行います。
(4)個人用保護具の使用:保護手袋やマスクなどの個人用保護具の使用をします。個人用保護具の使用は、上記(1)~(3)の措置を講じた場合においても、 除去・低減しきれなかったリスクに対して実施するものに限られます。
リスクの洗い出し、評価、リスク低減策を考える作業は一度行えば終わり、ではなく、PDCAサイクルに従って、定期的に見直しをしなくてはいけませんし、リスク低減策を守って作業を実施することが必要です。
経営層、管理層だけが安全衛生に積極的でも、実際に安全衛生を実施するのは現場です。現場が「やらされている」など消極的な状態では、安全衛生が守られません。現場で実際に働く従業員一人ひとりが自分ごととして考えられるよう、一人一人が自分のこととして安全衛生活動を行う必要があります。