HOME > ブログ > 新型コロナワクチン考:国産ワクチンについて
新型コロナワクチン考:国産ワクチンについて

新型コロナワクチン考:国産ワクチンについて

「新型コロナワクチンを開発している」と喧伝している国内医薬品メーカーはいくつかあります。

その中で先頭を走っているとされていたアンジェスの臨床試験結果が公表され、「有効性が確認できなかった」ということのようです。

国産ワクチン競争、トップ交代 治験で有効性確認できず(共同通信) – Yahoo!ニュース

ワクチン開発をいくつも手掛けてきた経験から言うと、アンジェスのワクチンが成功する確率は限りなくゼロです。

DNAプラスミドを利用したDNAワクチンは、手軽に製造できるので過去いくつも開発されてきましたが、DNAの毒性の問題や有効性が示せないことなどから過去、1つも成功したことがないものです。アンジェスは「自分たちの技術があれば成功する」とメディアで宣伝して吉村知事も「大阪発」などと言ってきましたが、その具体的な技術内容が示されたことはありません。そもそもアンジェスがDNAワクチンの確固とした技術を持っているのであれば、それは「世界で唯一の技術」ですので外資系製薬メーカーは積極的に提携を行うでしょうが、アンジェスの技術は評価に値するようなものではありません。

ワクチンは健常な人に投与を行うため、安全性の要求水準は通常の医薬品の比ではありません。安全性は実際にヒトに投与してみないとわからないですから、臨床試験に要求される症例数は1万~数万例が必要です。100例とか、500例とかの小さな症例数で承認しているのは日本ぐらいのものです。海外のワクチンメーカーが日本で行った臨床試験が100例とか1000例とかの小さい症例数でも承認されているのは、海外での1万例規模の臨床試験のデータがあるからです。日本のメーカーが日本国内だけで500例ぐらいの臨床試験をやって、それだけをもとに「有効性が・・」「安全性が・・」と言っているのは、お話にもならないのです。

シオノギのワクチンはバキュロウイルス―昆虫細胞の培養系で、VLP(virus-like particle)というウイルス様粒子を作る製造系です。同様のVLPワクチンは植物細胞を使った培養系で田辺三菱のカナダ子会社のメディカゴが開発しており、カナダや英国で既に3万例ぐらいの治験が実施されています。シオノギは「国内では治験の症例数を増やせないので承認に必要な症例数を少なくして欲しい」というようなことを言っているようですが、安全性を考えれば本末転倒の話です。また、一般的にVLPワクチンだけでは十分な免疫を得ることが難しいため、田辺三菱/メディカゴのVLPワクチンは免疫増強剤としてGSKのパンデミックアジュバントを使用しているのですが、シオノギのワクチンはアジュバントを使用していません。そもそもアジュバントを使用せずに開発していたメディカゴのVLP季節性インフルエンザワクチンは開発が中止されてしまいましたし、最近の情報では新型コロナワクチンはカナダで承認が得られるかどうかも危機的な状況です。

また、シオノギのワクチン技術は買収した秋田のUMNファーマの技術で、もともとUMNファーマはアステラスとVLP季節性インフルエンザワクチンの開発をしていたのですが、ワクチンへのラブドウイルス(狂犬病ウイルスの仲間です)の混入問題を解決できなかったことと、既存ワクチンと大差のない効果だったために季節性インフルエンザワクチンの承認を得ることができず開発を中止した歴史があります。同じ技術を使ってコロナウイルスワクチンの開発をするのであれば、有効性のみならず安全性については厳重に評価する必要があります。正直なことを言うと、パンデミックアジュバントを利用したメディカゴですら有効性に問題があるような状態で、シオノギの単味のVLPワクチンが優れた有効性・安全性を示すとは到底思えません。

KMバイオロジクス(KMB)は元々は化血研というワクチンの名門会社でしたので、技術的には世界のトップレベルです。KMBが開発しているのは非常にオーソドックスなタイプの不活化コンポーネントワクチンでブースター用に開発を進めています。コロナウイルス用の不活化コンポーネントワクチンはSARSの時代から数多く開発されているのですが、コロナウイルスを培養・増殖させる方法が難しいことと、十分な有効性を長期間持たせるのは難しい方法なので、ファイザーなどのmRNAワクチンに勝つことは難しいと思います。

第一三共は独自のmRNAワクチンを開発しているようですが、mRNAワクチンの製造は特許でガチガチに固められているのが現実です。第一三共が持っているmRNAワクチン関連の特許は限定的で、少なくとも海外で使用・販売することは相当困難なはずです。

VLPセラピューティックスの自己増殖型mRNAワクチンは安全性の検証が不十分すぎます。まだまだ40~50例の治験しかやっていない段階で、「2022年中の実用化を目指す」などというのは安全性軽視もいいところです。自己増殖型ワクチンは長期影響も懸念されるワクチンですので、数1000~数万例の数年~10年ぐらいの安全性確認試験がないと安全とは言い切れません。

国産ワクチンの中で最も市販に近いところにいるのはKMBの不活化コンポーネントワクチンですが、その効果は高くはないはずですから、有効性の観点からは承認を取ることも難しいかもしれません。企業は「開発して成功する可能性が高い」と言わないとプロジェクトとして生き残ることができないので、「うまくいく」「世界で初めて」「成功する」と言いますが、残念ながら、そのほとんどは達成することはできません。現時点では国産ワクチンが出現してファイザー/モデルナのワクチンを上回る効果を示す可能性はほとんどない、と言えます。

 

診療予約