HOME > ブログ > 医薬品個人輸入の危険性
医薬品個人輸入の危険性

医薬品個人輸入の危険性

最近、海外で流通している医薬品や化粧品を個人輸入して使用する方が増えてきたようです。また、美容医療の自由診療を行っている医療機関が海外の医薬品を個人輸入して使用していることもあるようです。

医薬品開発・安全性の専門家として言わせて頂くと、医薬品の個人輸入は危険なのでお止めになった方が良いと思います。

日本の医薬品流通はとてもよく管理されているので、ニセ医薬品が入り込む隙はほとんどないと思います。しかし、海外は違います。

日本と異なり、海外では1錠ごとのPTP包装ではなく、ボトルに裸の錠剤やカプセルが入っているだけ、という包装形態も珍しくありません。日本ではプリンタで錠剤1錠ずつに印刷がしてあったりしますが、海外では何の印刷もないのっぺらぼうの錠剤も多くあります。また、海外の製薬会社のジェネリック医薬品工場に視察に行くと、とても日本では許容できないような「とんでもないこと」がたくさんあったりします。世界は広いのです。日本の常識は通用しません。

もともと医薬品の価値はその成分と、成分に関する情報にあります。新規医薬品が高価なのは開発費用や安全管理などに多額の費用が掛かっているからです。一番大事な有効成分の入っていないガラだけの錠剤やカプセルは安くて発展途上国でも簡単に作れます。そして、それをニセ薬として売れば、先進国で高値で売ることで大きな利益を得ることができます。

正規の製薬会社側としてはニセ薬を見分けられるように、包装にマイクロプリンティングやブラックライト印刷など、いろいろな仕掛けをすることがあります。ニセ薬を作っている連中は精巧なニセ包装を作ってくることもありますが、「Wordで印刷しただけ」の「誰が見てもニセモノだろう」というレベルの包装のニセ薬を出荷してきたりします。本物の価格が高い医薬品だと、健康保険の整備が不十分な国では本物を見たことがある人が少ないので、いい加減なラベルや包装でもまかり通ってしまうことがあるのです。本当に嫌になります。

ボトックスというボツリヌス毒素を利用した医薬品があります。値段が高いのでニセ薬が多いのですが、中国で見つけたニセのボトックスには、なんと通常品の10倍以上のボツリヌス毒素が含まれていたことがあります。作るだけ作ってみたものの、おそらく力価の検定ができなかったのでしょう。中国から個人輸入の経路で不法に輸出された海外の国で、このニセのボトックスを注射して数名の方が死亡したので発覚しました。

また、南米で発見されたバイアグラのニセ薬には、なぜか通常品の1/4~1/5量の成分が含まれていたことがあります。成分が含まれていないと全く効果が出ないので、わざわざ錠剤をつぶしてから、添加物で薄めて打錠しなおしてニセの薬を作ったようです。発覚を遅らせて作ったニセ薬を売り切る作戦だったようです。

東南アジアで流通していたニセワクチンの中身が「生理食塩水」だったということもありましたし、抗生物質の中身が違う成分だったり、海外のニセ薬は様々です。医薬品の名称が書いてあるボトルの中に、雑多な錠剤が封入されていたことすらあります。医薬品だけではなく、健康食品や化粧品の類でも、規制対象の医薬品成分が含まれていたりすることも珍しくありません。

また、医療用具や医薬品なら安全に使えるように作るのが当たり前なのですが、ニセモノではないものの、適当に作りやすいように作っただけ、という製品もありました。あるアジアの国から出荷されていたカラーコンタクトレンズは、角膜に接する内側にインクで印刷がしてあるだけなので、使うと角膜にインクが転写されて視力障害を起こす、というようなものもありました。

ニセモノではなく、本物の医薬品でも海外製は問題があることが多々あります。製造工程の管理も日本では厳密に管理されていますが、海外ではそうとも言えません。異物混入が起きないように、医薬品の製造工場に入るには、白衣に着替えて靴も履き替えてカバーをして、キャップをかぶって、エアーシャワーを浴びて…と清潔にする必要があるのですが…あるヨーロッパの国の工場に見学に行った時のことです。日本と同じように着替えて製品のボトル充填ラインの見学をしていると、やたらとガンガンうるさい音がしています。なにかと思って見てみると、機械を使ってホコリをたてながら工場の壁に穴をあけています。「何をしているのか?」と聞くと、「あれはラインの新設工事だよ」との返事。「充てん作業中にこれはダメじゃないのか?」と言うと、「いや、床にテープで線を引いてマーキングしてあるだろ?ほら、あの枠の中でしか工事をしてないから平気だよ。と…いやいや、それはダメでしょ!だって、すぐそこでは製品のボトル充填をしているのに…ですよ!

また、違うヨーロッパの国の工場での出来事です。工場内で使う箱などの部材は、「パレット」といわれる台に乗せて運ぶのですが、そのパレットがボロボロの木でできていて、しかもそれが準清潔ゾーン内に置いてある、というようなこともありました。準清潔ゾーンに虫や木のゴミが入り放題です…こんなこと、日本ではありえません。

またある会社の薬のバイアルの中に小指の爪ほどの大きなガラス片が入っていたので、海外の工場にクレームをいれたところ…「どのくらいの大きさか?」というので、「小指の爪ぐらいの大きなガラス片の混入だ!」と伝えると…「ああ、それだけ大きかったら注射器の針で吸えないから安全だよ」という返事が返ってきて目がテンになったこともあります。

海外で使われているボトル製剤の中に虫が入っていたので、「昆虫が入っていたぞ」と指摘したら、「ああ、この工場の辺りは虫が多いからね。」という返事をもらったこともありました。

海外ではヨーロッパも含めて古くから使われている抗生物質なのですが、日本では承認されておらず国内の臨床では使えない医薬品を学会の依頼で開発することになり、基礎調査を始めた時のことです。製品はヨーロッパでも使われているから平気だろう、と思っていたのですが、有効成分は発展途上国にある工場が作っていて、これがどうも怪しい。手順書を取り寄せて確認してみると、ブタ用の有効成分をヒト用に転用していたことが判明したことがあります。もともとはヒト用だったのですが、古い医薬品だったので、徐々にブタ用の用途の方が大きくなり、しかも、工場ごと別の会社に売却されたりしたため、「どうせブタ用に使うならヒト用ほどちゃんと作る必要はないだろう」ということで、手順書違反がたくさん発生していたのでした。古い薬だったため、最近は海外の規制当局もあまりきちんと検査しておらず見過ごされていたようでした。このケースでは、もちろん手順書違反を修正させた訳ですが、違反に違反を重ねているため、完全に修正を終了するには3年以上かかりました。

医薬品、特に有効成分はとても少ない量でまかなえてしまうため、発展途上国の小さな工場でも十分作れて、莫大な利益を上げることができます。例えば、年間100億円を売り上げる1錠100円の医薬品なら、年間1億錠作る必要があります。この錠剤1錠中に1mgの有効成分を含んでいるのなら、1億mg=10万g=100kgですから、高々年間100kg作れば十分なのです。発展途上国の小さな工場でも十分に対応できます。…というよりも、有効成分の原末に関しては、人件費の安い発展途上国で作らないと価格的に折り合わないのです。だって、日本なら薬価はどんどん下がっていきますから、古い医薬品なら1錠5円なんて珍しくありませんので。だからこそ、しっかりと査察を行って品質管理をしなければいけないのですが、海外製の安い医薬品の場合にはだれがどこでどう管理しているのかすら不明です。

国内できちんとした販売体制を取っている医薬品の場合、製薬会社がきちんと責任をもって全工程を品質管理を行っています。

しかし、個人輸入された医薬品の場合、品質どころか、製造場所すらわからないことがあります。本物かニセモノかもわかりません。医薬品は光や温度によって変性したりするものがたくさんありますから管理方法も重要ですが、どこにどうやって保存管理されていたのかもわかりません。最終製剤だけではなく、有効成分の原体がどこでどういう風に作られていたかの管理もされていないかもしれません。こんな医薬品は怖くて使えません。

また、国内で正規販売されている医薬品で副作用が起きた場合には、医薬品副作用被害救済基金で補償してもらうことができますが、個人輸入の場合には、100%自己責任です。医師が個人輸入した場合には、輸入した医師個人が全責任を負わなければなりません。現実的には補償は不可能と考えてよいです。

個人で医薬品を輸入することや、「海外から輸入しているので安く販売できます」などの宣伝文句で広告している医療機関などからの購入は絶対にしないでください。「自己責任だから」では済まされません。本当にやめておいた方がよいですよ。

 

 

診療予約