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新型うつ病とセルフイメージ

「新型うつ病」と呼ばれる病気があります。最近増加傾向にある、これまでのうつ病のイメージにはあてはまらない「ニュータイプのうつ病」です。

従来の「うつ病」は、「気分が沈んで何事に対しても興味関心がなくなり、そんな自分を責めてばかりいる」というような、「中年期に几帳面な性格や仕事熱心な中年男性が発症する」病気でした。

これに対してニュータイプのうつ病は、20~30代を中心に「職場ではつらいと感じるけれど、帰宅後や会社や学校へ行かなくていい休日は、自分の好きな趣味などに没頭でき、活動的になる」、「やりがいのある仕事に巡り合えなくて、自分を不運だと思っている」、「うまくいかないことがあると、身近な人間や会社のせいにする」、「うつで休職することに対し、あまり抵抗感がない」、「ちょっとした他人の言動に過敏に反応し、落ち込んだりイライラしやすい」といった特徴があります。

新型うつ病は、「今まで見られなかったうつ病」というだけのことで、新型うつ病という病気があるわけではありません。

日本うつ病学会のガイドラインによると、「現代型(新型)うつ病」は「若年者の軽症抑うつ状態の一側面切り取ったもので、マスコミ用語であり、精神医学的に深く考察されたものではなく、治療のエビデンスもない」とされています。そのため医学的に明確な定義がある訳ではありません。

そんな「新型うつ病」を会社サイドと医療・患者サイドの両方から見てみると、大きな食い違いがあることに気が付きます。

まず会社サイドからみると、通常のうつ病であれば、「本人は仕事に戻りたいと思っているのに戻れない」という状況がベースにありますから、少しずつ仕事ができるように順を追って職場復帰プランを実行に移していくようにします。「新型うつ病」という診断書があがってくると、「うつ病」というカテゴリーに当てはめて、うつ病の職場復帰プログラムに従って問題を解決しようとします。ところが、新型うつ病では、「休職中は元気だが、職場に出るととたんに調子が悪くなる」という現象が見られます。そうすると、通常の職場復帰プログラムの「職場復帰したら調子が悪くなった場合」に当てはめて、「再度休職をさせる」という対応策をとります。これが来る返されるので、いつまで経っても職場復帰ができない、ということになり、会社サイドには大きなフラストレーションが溜まります。

患者サイドからみると、別にうそをついている訳でもなく、「職場復帰したら本当に調子が悪くなる」のですから、「休職をするのは当然」な訳ですし、「休職中は調子が良い」のも事実です。会社から「休職中には仕事のことを考えずにできることをやって下さい」と言われたので、「できることをやっているだけ」とショッピングに行ったりドライブに行ったり友達と遊んだりコンサートに行ったりします。これを会社側から見ると「調子が悪いと言っていたのに遊びに行っているじゃないか!何をサボってるんだ?」ということになります。

これに、産業医や精神科医・心療内科医に企業勤務経験がないことが拍車をかけます。患者側に立つ医師は「配置転換をするなり、上司を変えるなり会社が対応すればよいのに、会社の対応が悪い」と言います。企業の中で人を一人配置転換する、働く部署を変えるというのはとても大変なことです。その人一人の問題ではなく、多くの関係者が影響を受けます。配置転換や所属変更なんてそんなに簡単にはできないのです。医学の教育を受けたことがない管理職の人たちだって、うつ病の職場復帰プログラムのトレーニングを受けて頑張っているのです。でも現実にはそのトレーニングは「旧型」うつ病のためのトレーニングですから、新型うつ病には効果がありません。このため、人事も現場も管理職も、そして、本人も含めて誰も解決策がないまま、膠着状態に陥っています。

私は、新型うつ病が発症する大きな理由に「セルフイメージの崩壊・ミスマッチ」という問題が潜んでいると考えています。

セルフイメージというのは、「自分の自分自身に対する理解に基づく自己像」のことです。子供時代から学生時代、社会人の時代までの自己の経験から作られた自分に対するイメージです。子供の頃の自己像は「自分の中のイメージ」だけですから、将来はお姫様やヒーローになりたい、あるいは、野球選手やサッカー選手になりたい、というようなイメージを持ちますが、だんだんと社会経験が積まれてくるに従って現実的なイメージに変わっていきます。このプロセスは、ある意味では「あきらめのプロセス」と言えるかもしれません。しかし、近年は「自分のやりたいことをする」「夢を追いかけていく」というように社会が変化したため、「自分の中の自己像」が「現実の自己」に比べて大きくなってギャップを生じている人が多くなってきました。このような状態で「仕事」や「社会」「学校」というような現実に出会ったときに、そのギャップをうまく受け入れることができずに生じているのが「新型うつ病」の1つの病理ではないか、と思います。

もちろん、「新型うつ病」の中には発達障害や自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群、性格障害、さらには、適応障害なども含まれているため見分ける作業が必要になります。しかし、自分の会社勤務の経験から考えると、一定数の、実はかなり多くの新型うつ病の患者さんがセルフイメージのミスマッチの問題を抱えているように思います。

この問題の詳細についてブログないという文章の量が限られた中で詳説することはできませんので、きちんとまとめたものを別に用意しておこうと思います。企業の方には当院の産業医・産業衛生活動の中でご紹介することも可能ですので、ぜひ一度ご相談いただければと思います。

 

 

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