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塩野義製薬のコロナ治療薬「ゾコーバ」について

塩野義製薬のコロナ治療薬「ゾコーバ」について

6月に行われた専門部会で承認されず、継続審議となっていた塩野義製薬の新型コロナ治療薬 ゾコーバ(エンシトレルビル)について、7月20日に薬事・食品衛生審議会の薬事分科会と専門部会の合同会議が開かれました。

「残念ながら」承認はされず、継続審議となりました。

申請資料も審査報告書も一通り読んだ感想は、

「よくこんなものを申請しようと思ったな!承認されなくてよかった」

正直なところ、医薬品として承認申請をするレベルのものですらない、と思います。

審査報告書を書くPMDA(医薬品医療機器総合機構)も相当苦労したでしょうね。

このレベルの申請資料の内容で承認が取れる訳がないことぐらい、どんなにレベルの低い臨床開発関係者でもわかります。

ましてや塩野義の抗ウイルス剤チームはインフルエンザの感染症治療薬も開発してきた経験のある開発部隊ですから、このレベルの臨床試験とこの結果で承認が取れると信じていたとは、とうてい思えません。

いくらフェーズIIとはいえ、これだけ患者がいる状況で症例数が200人にも満たないレベルの臨床試験を国際共同試験で実施する神経も分かりませんし、そもそもこの試験自体は完全な失敗試験です。

とにかく小さい規模の臨床試験を早く終わらせて終わらせて申請したい、という会社の意図が見え隠れします。

こういう時期だからこそ大規模にしっかりした臨床試験を実施してから世に出そう!というのが製薬会社のあるべき姿勢だと思いますが、塩野義の臨床試験計画からはそういう姿勢が全く感じられません。

しかもこの薬は、同時に併用できない薬が多くあるほか、催奇形性の問題があるため妊婦には投与できません。

こんな物性レベルの情報は臨床試験を始める前から分かっていることです。こんなものを「軽症コロナ治療薬」として承認したら、何が起こるかは誰でもわかるはずです。

もともとが化合物としても十分な性能を持っていないものを、低レベルの手抜きの臨床試験をやらせて結果も出せず失敗したのに、「国と供給の約束をしているから」という理由で会社上層部がゴリ押しで申請させたのでしょう。まあ、メンツのためだけですね。

そもそも治験というのは、医薬品の最低限の効果(有効性・安全性)を検証するためのものです。性能評価のための試験ですから、できるだけノイズの入らない環境で試験を実施しなくてはならないので、「選択・除外基準」などで患者さんを選んで治験を行います。治験の範囲には通常、小児や妊婦、高齢者は入りませんし、他の薬を飲んでいる人も入れません。そのような「純化された」環境で治験を行って性能評価を行います。

一方で現実世界にはいろいろな人がいますし、コロナのような病気は、健康な人だけではなく、すでに病気を持っていたり、薬を飲んでいたり、高齢者だったり、子どもだったりと、誰もがかかる病気です。そのような環境下では、実態に即した安全性・有効性のデータを取らなくてはいけません。薬剤評価のための本試験だけではなく、ノイズのある現実世界に即したデータも取らなくてはいけないのです。あまりに治験サイズが小さかったり、試験本数が少ないとこういうデータが得られません。

そういう意味でも塩野義の試験計画は手抜きと言われても仕方ないレベルです。

催奇形性のある薬剤を「軽症コロナ治療薬」などとして使える訳がありませんから、「重症患者への最後の手段」ならあり得るのかもしれないという意見もあるようですが、重症患者への最後の手段で使えるような有効性はもっていませんから、治療薬としても使えるものではありません。

専門協議に出席していた1人の委員は「それでも有用性がある」という説明をしていたようですし、昨日の合同部会でも国立がんセンターの感染部長が「効果はある」と説明したらしいですが、メーカーが作った資料の説明をするだけの、このレベルのニセモノ専門家には早く退場して欲しいものです。

政治や行政上層部からのプレッシャーの中で、PMDAのメンバーや専門部会の委員の先生がきちんとした判断をするのは大変なことです。

一方で、このシオノギのゾコーバをメディアに「有望な国産抗コロナ治療薬」と持ち上げさせて、さんざん儲けた政治家や投資家もいます。

シオノギも「新型コロナウイルス感染症治療薬の実用化のための支援事業」で補助金をもらったはずです。アンジェスのDNAワクチンやイベルメクチンもそうですが、医薬品開発の専門家の視点からは「絶対開発に成功するわけがない」ものに多額の補助金を入れる行政や政治の在り方はおかしいとしか言いようがありません。

11月にフェーズIIIの結果が出るらしいですが、期待はできないと思います。

 

 

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