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コロナワクチンの4回目接種についての当院の考え方

コロナワクチンの4回目接種についての当院の考え方

「コロナワクチンの4回目は打っておいた方がいいのでしょうか?」

というご質問をよくいただきます。

ここで白状しておきますが、2020年1月に武漢でコロナウイルス感染症が始まった直後に、日本への新型コロナワクチン導入について、おそらく日本で一番最初に活動を開始したのは当院の院長である私です。

当時私はアストラゼネカという製薬会社の日本法人の執行役員(兼ロンドン本社のvice president)だったのですが、2020年の1月時点で武漢で発生していたコロナウイルスが世界的パンデミックになることをいち早く予想して(WHOよりも早かった)、ロンドン本社と共にオックスフォード大学の新型コロナワクチンをアストラゼネカに導入し、ワクチンフランチャイズの全くなかった日本のアストラゼネカと国内のワクチンメーカーをつないでコロナワクチンの日本国内製造のためのネットワークを構築して日本へのコロナワクチン導入をしたのです。

アストラゼネカ-オックスフォードのワクチンは、パンデミック期間中、一切の利益を取らず、製造原価だけで日本を含む世界各国に供給しました。実はオックスフォード大学からのワクチン技術導入についてはアストラゼネカ以外の会社も手を上げていたのですが、「利益を一切取らないで製造・供給する」という条件で合意できたのはアストラゼネカだけだったのです。アストラゼネカ-オックスフォードのワクチンはウイルスベクター型ですので、比較的軽装備の製造施設で製造できるため、早く製造に取り掛かれて、しかもある程度の細胞培養技術があれば世界各国で現地生産が可能ですからワクチン争奪戦が起きにくいという点も利点でした。なにより利益を上乗せせずに製造・供給することで貧困な国々に対してもワクチンを供給することが可能になります。

いくら「利益を上乗せしない」とはいっても製造コストはかかります。人件費の高い国で製造すれば製造原価は高くなってしまいますから、貧困な国が購入することは難しくなります。その点分散製造方式であれば人件費の安い国でも製造することができるので私たちはこれはパンデミック時のワクチン供給としては非常に重要な点だと考えていました。このような分散製造方式は品質管理の点では難しさはあるものの、一度製造プロセスを立ち上げてしまえばイデオロギーの違いや貨幣価値の違いなども乗り越えて、お金持ちの先進国だけではなく、発展途上国も含めて世界中に安定供給することができますし、テロ対策としても有効です。

「特殊な1か所の大規模製造工場で製造して世界に供給する」という方式はテロの危険もありますし、製造施設の立ち上げに時間も資金もかかりますので短期間で達成するのは困難ですし、製造初期には製造コストが高止まりするので世界中に供給する製造系を立ち上げるのは難しいだろうと考えていたのです。ビオンテックと組んでこの難題を解決して実現してしまったファイザーには「さすがはファイザー、すごい」と言うしかありません。

このコロナワクチンの日本導入の仕事が一段落付いたことをきっかけに東中野にクリニックを開いて、今度はワクチンを打つ側になった訳です。

閑話休題

さて、ワクチンの設計をする時に、3回目、4回目のブーストを考えて設計することはあまりありません。

1回目、2回目で基礎免疫をつけて、その後は変異に備えて、あるいは、免疫の再増強のために、季節性、あるいは、ブースト、という形で1~数年に1回接種をする、というのが基本的なワクチンの設計時の考え方ですから、「同じワクチンを半年ごとに繰り返し何度もうつ」というのはもともとのワクチン設計からはかなり外れた打ち方になります。

「ワクチンを打てば二度とその病気にはかからない」と誤解している方が多いのですが、1~2回のワクチン接種で終生(生涯)免疫を獲得できるような病気はそうそうありません。ポリオや麻疹のように終生免疫を獲得したように見えていたものもありますが、「自然に存在するウイルスの攻撃を時々受けて、そのたびに免疫増強が起きていた」、つまり、「自然に免疫増強(ナチュラルブースト)を受けていた」ために終生免疫を得たように見えていただけ、というのが真相です。

その良い例が天然痘で、1970年代以降、天然痘が根絶されたためにワクチン接種が中止されています。ワクチン接種中止20年後に行われた天然痘の抗体価調査では、ワクチン中止以降に生まれた方では当然抗体保有率0%でした。ワクチン接種世代でも抗体保有率は80%、疾病が予防できる高度なレベルの抗体保有率は20%というデータがあります。天然痘ワクチンは非常に優秀なワクチンでしたが、それでも20年たつと20%の方は免疫を失ってしまいます。

ワクチンを打っても100%無敵状態になる訳ではありませんから、「ワクチンを打ったのにコロナにかかった」というのはある意味当然で、基本的な感染防御は行っておく必要があります。

「ワクチンなんて打たなくても自然に感染すれば免疫がつく」という意見もありますが、年齢や基礎疾患の影響で、その病気を乗り越えられない可能性のある人たちや、かかったら命がけになったり一生障害が残ったりする可能性のある感染症の場合には、「自然感染は命がけのギャンブル」になってしまうので、体の状況の良い時にワクチンを打って体に基礎的な予防能力を教えておいた方が安全です。

余談ですが、「副反応が出なかったから免疫がついていないのではないか?」と心配される方がいらっしゃいますが、どんなワクチンであれ、副反応の強さと有効性が比例するというデータはありません。誰に副反応がどの程度出るのかはわからないので、欧米ではdevil’s lottery(悪魔のくじ引き)という言葉があるくらいです。副反応が弱かったから、といって心配しないでくださいね。

ワクチンは自然感染よりも安全に基礎免疫を作るための道具ですから、あくまでも基礎免疫を作ることを優先して設計します。基礎免疫、というとわかりにくいかもしれませんが、

1回目は体に「これが敵の目じるしだ」と教えてあげる

2回目は「これが敵の目じるしだから戦う準備をしてね」と教えてあげる

ことで、体に基本的な免疫機能を教えてあげる、要するに「こいつは敵だよ」と教えてあげることです。

まあ、学校で漢字を習って「覚えるために」小テストをするのが1回目、「忘れてないよね」と期末テストをするのが2回目、という訳です。

モデルナのワクチンは2回目の期末テストが厳しすぎたので、副反応が高頻度に発生してしまいましたが。あ、これは冗談で言っているのではなく、実際、モデルナの2回目のワクチンは1回目の半分の量で充分だっただろうと思います。しっかりした効果を得ようとして1回目と同量を2回目に接種する設計にしてしまったために副反応が多く出てしまったと考えています。

実は、私は「モデルナの2回目の接種量はUSと同量では副反応が強く出るから、半量に減量した方が良い」と厚労省や当時のワクチン担当大臣には伝えたのですが、厚労省と当時モデルナワクチンの開発を行っていた武田薬品は緊急承認のスキームを使うために「海外と同じ用法用量で日本に持ってくること」を優先させたのです。法整備上の問題で仕方ないと言えば仕方ないことではあるのですが、臨床試験に一工夫することで国内では半量に減量したスキームで承認することも可能でしたし、そうすればモデルナの評判を落とさずに済んだのに、と思うと少々残念ではあります。

さて、勉強と同じで、期末テストをしたから、といって一生覚えている訳ではなく、だんだん忘れていってしまうので、たまに、「ちゃんと覚えているよね」と時々刺激をする必要があって、これを「ブースト接種」と言っています。

mRNA型にしろ、ウイルスベクター型にしろ、コロナワクチンを打つと液性免疫(抗体産生)と細胞性免疫の両方が活性化されます。作られる抗体は血中に存在するIgG型抗体が主体で、細胞性免疫もある程度増強されるので、喉で増殖して肺に落ちたウイルスは十分に排除できるようになります。肺は血流が豊富な臓器なので、血中にあるIgG型中和抗体が一定量あれば十分にウイルスを中和することができます。これがワクチンの重症化予防効果の正体です。mRNA型ワクチンの重症化予防効果は強力ですので、2回の基礎免疫を行っておけば十分だと考えられます。

一方でオミクロン株のように上気道、つまり、のどの部分などで増殖するような状態では、のどの部分は血流が豊富な部分ではないため、IgG型抗体では十分な感染予防ができません。このような部分ではIgAという分泌型抗体が感染予防に重要な役割を果たすのですが、ワクチン、特にmRNA型ワクチンではIgA型抗体の誘導はできないので、感染予防効果は重症化予防効果程には期待できない、ということになります。

アデノウイルスを使用したウイルスベクター型では咽頭部分でのベクターウイルスの増殖が生じるため、IgA型抗体の誘導が可能となりますから感染予防効果が期待できます。これがアストラゼネカ-オックスフォードワクチンがファイザー/モデルナと大きく異なる点で、実際にイギリスで行われた感染抑制実験(アストラゼネカワクチンを打った後にコロナウイルスを噴霧して感染するかどうかを調べる実験)では、アストラゼネカワクチンの感染予防効果が実証されています。

これは、インフルエンザなどの呼吸器系ウイルスのワクチンでは一般的なことで、インフルエンザワクチンで感染予防効果が明確にあるのは、世界中で経鼻弱毒生ワクチンであるフルミスト(本邦未承認)だけです。これもアストラゼネカのワクチンなのですが、日本に導入したかったので、私が日本のワクチンメーカーに導出しました。その後開発に手間取ってしまって残念ながら日本ではまだ未承認ですが。

さて、現在日本で主流のファイザー/モデルナのワクチンでは「重症化予防効果は大きいものの、感染予防効果は限られる」というのが私の理解です。ですから、マスクで飛沫を飛ばさないようにすることは「ヒトに感染させない(感染予防)」と「ヒトからうつされない(感染防御)」の両面から有用です。ただ、ファイザー/モデルナのワクチンの感染予防効果が全くない、ということではありませんから、誤解のないように。

コロナウイルスが「密集、密接、密閉」という三密環境下で効率よく感染する、ということを見つけ出したのは日本の専門家の方々の特筆すべき業績です。三密というのは、「コロナウイルスを含む飛沫が飛び散る範囲(密接)に、飛沫を多く含んだ空気を反復して(密閉)、多くの人が呼吸で取り込む(密集)」ことが感染拡大には必要だ、ということです。

実は、飲食店や飲酒の制限の意味というのは、飲食店は密集・密閉が裂けられないので、飲酒や飲食の際にマスクなどで防御することなく話をしたり大声を出すことで飛沫を飛ばしてしまうことを抑制することが本質ですから、一人で静かに黙ってご飯を食べたりお酒を飲んでいる分にはあまり問題がないと考えています。

冒頭の「4回目接種はどうしたらよいのでしょうか?」という質問の意味は、

「基礎免疫は済んでいるけれども、ブースト接種はどうしたらよいのか?」ということですね。

基礎免疫は済んでいるので、コロナウイルスが体に入ってきた場合、体は「敵が来た」と認識する能力は獲得しているはずです。問題は、「敵が来た」から臨戦態勢→迎撃態勢が完成するまでの時間です。

「コロナにかかったけど数日で治ったから風邪みたいなものだ」というのは、コロナウイルスが弱毒化したからではなく、ワクチンや自然感染である程度の基礎免疫ができていたからだと考えるのが妥当です。ワクチンを打ったことがない人でも、コロナウイルスがまん延しているので、自然に感染して基礎免疫を獲得した人もいるからです。ちなみに、ウイルスが弱毒化するのには数10年~100年程度の時間がかかるので、こんな数年程度で弱毒化することはありません。

若い人で基礎免疫が済んでいれば、感染から数日もあれば迎撃態勢まで持っていけるでしょうし、その間数日熱が出たりのどが痛かったりしても耐えるだけの体力もあるでしょう。

でも、高齢者や基礎疾患のある人の場合には、この数日の時間が命取りになるかもしれません。たとえ肺炎にはならなかったとしても、のどの部分でウイルスが増殖して咽頭炎を起こせば水分や食物摂取に問題が出るかもしれません。子供のように気管が細い場合には窒息や呼吸困難を起こすかもしれません。ただでさえ暑い夏です。数日間水分や食物が接種できないことが致命的になる可能性は高いのです。

こういう方々はブーストをして抗体価を上げておくことで迎撃態勢完成までの時間を短くしておくことができますので、4回目接種は有効だと思います。

一方で、若い人まで4回目接種が必要か?と言われると、かなり疑問が残ります。それよりも子供も含めて未接種の人に1回目、2回目接種を行って基礎免疫をつける方が重要だ、といのが当院の考え方です。

 

 

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