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創薬詐欺に騙されないで!見分け方を教えます。

創薬詐欺に騙されないで!見分け方を教えます。

コロナのように、国が多額の補助金を出すとか、メディアや世間が注目している案件には、言葉は悪いですが

創薬詐欺

とでも言うべき製薬会社やベンチャー、起業家、研究者などがわらわらと湧いて出てきます。

今日は皆さんに「創薬詐欺師」の見分け方をお教えしましょう。

 

まず「創薬詐欺」の定義ですが

成功可能性の低い医薬品やワクチンのプロジェクトを「できる」「世界初」などの言葉で飾り立てて、補助金や自社の株価上昇をねらう手口を使う人や会社

としておきます。

 

創薬詐欺の見分け方 : その1  世界で自分たちだけが持っている技術だというが、他の会社が追従していない

「世界中で自分たちだけが特殊な技術で開発に成功した」とか言っているのは最も危険なサインです。世界中の製薬会社は鵜の目鷹の目で新しい技術を探し回っているので、可能性のある技術であれば高いお金を支払ってでもその技術を手に入れようとします。逆に、世界中の製薬会社が見向きもしない技術というのは「成功可能性がほとんどない」と思われている技術なのです。

こういう話をすると、「免疫チェックポイント阻害薬だって最初は誰も興味を示さなかったじゃないか!」とかいう話が出てきますが、確かにリサーチ初期の段階では「本当に効くかどうか、しばらく様子をみてみよう」という判断をすることはあります。しかし、ひとたび「効くかもしれない」というデータが出たら、世界中の製薬会社がこぞって研究をスタートさせるのが一般的です。1年、2年経っても世界中の製薬会社が動かない、というのは、

「そもそも有効性を示すデータが出てこないなぁ」と待っている

という場合だけではなく、

「もうとっくに自分の会社でそれは効かないことを調べ終わってしまっているので、改めて評価する価値もない」

という判断をしている場合も多くあります。

世界中の会社がもうすでに初期研究をし終わっていて「ワクチンや薬にするのはよほどのことがない限り難しい」という判断をした技術に食指を動かす会社が現れないのは当然のことです。「専門家がその人一人しかいない」なんてことは今の世の中ではありえません。一人の専門家しか出てこない、というのはそれだけでもうおかしいのです。

逆に、本当に素晴らしい技術であれば、外国の製薬会社はどんなに高い特許料を支払ってでも手に入れようとします。その金額は数千億円~1兆円を超える金額になることだってありますから、他の製薬会社が共同研究をしようと言わない、追従しないのは、それだけでもうおかしいと思った方がよいのです。

 

創薬詐欺の見分け方 : その2  「古い薬の再応用だから価格が安いので、製薬会社が手を出さない」と言う

古い薬を再利用して新しい適応症を探すことを「ドラッグ・リポジショニング」と言い、良く行われている手法です。大概は古い薬そのままで使えることは少なくて、古い薬の構造を基に新しい薬を開発したりします。

低分子医薬品の場合には、効果があると思えばすぐさま似たような化合物を探し始めます。今はAIを使った構造探索プログラムを使って基本骨格の再デザインをしますので、すぐに類似化合物を見つけ出すことができます(この領域では日本は完全に出遅れています)。これで新しい構造が作れれば高い価格を取ることができます。もちろん、すでに治療薬がある領域で、既存の薬と同程度の効果しかないものであれば安い価格しかつかないのは当然のことです。

新しい構造が作れなかったとしても新しい適応症であれば、古い薬であっても高い価格が付くことは、世界的にはごく普通にあることなので、こういう理由をいうのは製薬会社のビジネスを全く理解していない証拠です。

もし、「古い薬を全く新しい適応症で開発しているのに高い薬価が取れないで困っている」製薬会社の方がいらっしゃいましたら、いつでも当院院長にご相談下さい。本当に価値があるものであればきちんとした方法をアドバイスして差し上げます。

 

創薬詐欺の見分け方 : その3  事後解析をして「有効性を主張している」

医薬品の評価は過去の多くの失敗を踏まえて作り上げられてきたものです。現在の臨床試験は事前に厳密に計画されて、「臨床試験で達成すべき目標=プライマリーエンドポイント」は事前に定義されます。いかに優れた作用機序であろうが、期待を背負った製品であろうが、非臨床ですばらしい結果を出していようが、事後解析はご法度です。事前に定義されたプライマリーエンドポイントが達成されていなければどんな臨床試験であっても評価には値しません。統計解析はあくまでも推定の学問にすぎないので、必ず一定の間違いを含んでいる可能性があります。ですから、臨床試験が終わった後にいくつもの解析を繰り返していれば、必ず「有効に見える」ものを見つけ出すことができます。

「プライマリーエンドポイントは達成できなかったが、有効に見える点をいくつか見つけたのできっと有効に違いない」という推定はできません。

プライマリーエンドポイントが達成できなかったにもかかわらず、事後的にいくつもの追加解析をやって「有効に見える」点を見つけ出して「効果があるに違いない」なんて言っているのは、臨床試験の基本から完全に外れています。

 

創薬詐欺の見分け方 : その4  臨床試験が終わっているのに結果の報告に1か月以上の時間がかかっている

臨床試験の統計解析方法は事前に定義されてプログラムを作成します。臨床試験のデータが固定されたら、なるべく早く統計解析プログラムを走らせその結果を公表します。統計解析プログラムを走らせて結果に誤りがないかどうかを検証するのは長くても数日、どんなに長く見積もっても1ヵ月以上の時間をかけることはしません。それ以上の時間がかかっても臨床試験の結果が発表されない場合には、プライマリーエンドポイントが達成できなかったために発表できないのでしょう。

某大学の教授がこの点をSNSで指摘されて「統計解析には時間がかかるんだ、私がプロトコールをいくつ書いたと思っているのか!」という投稿をされていましたが、効果検証のための臨床試験の統計解析に時間なんてかかりません。この先生はおそらく効果探索のための探索的統計解析と誤解されているのかと思います。効果検証と効果探索の区別がつかない方がプロトコールをいくつ書いても良い結果が得られるわけがありません。

臨床試験が良い結果であれ悪い結果であれ、どういう結果を出したとしても、その結果を速やかに発表するのは臨床試験を実施した者の責務です。「この薬は効かなかった」というデータ(ネガティブデータといいます)を速やかに発表することで、その領域に無駄な努力をしなくてよくなるからです。

臨床試験の結果を何か月も発表しないでいる理由は通常「臨床試験の結果が悪かったので、それを発表すると自分の仕事がなくなる」場合だけです。

 

創薬詐欺の見分け方 : その5  「この新規技術は新しい時代のプラットフォームになる」とか過大にメディアにぶち上げる

別の事業をやっている会社が製薬事業を立ち上げて「がん治療の方向性を変える新規技術を開発する」と言って、政治家や芸能人を呼んで大パーティーをやったことがあります。

作用機序や使い方から言って、使える範囲が限定的であることはわかりきっていて、発生するであろう問題点や副作用の予想もできていたので、パーティーの時に開発の人を問い詰めてみたところ、案の定、予想通りの問題が発生していました。

その後もメディアや政治家、がんの専門家はしきりと持ち上げていましたが、今でも「がん治療の方向性を変える」ようなことにはなっていません。

大きく過剰にメディアなどにぶち上げている場合は、資金集め目的のことが多いので、注意が必要です。

 

創薬詐欺の見分け方 : その6  海外で治験をやる、と言っているがその相手国が欧米(+中国)以外の国

製薬会社が医薬品の開発を海外主体でやることは多いのですが、医薬品の開発・承認などの過程は各国で重複している部分も多いため、ICHという取り決め組織でルール化して重複部分はできるだけ少なくなるように調整・話し合いをして取り決めています。この基準を作る国は日米欧に最近中国も入ってきたところなので、治験の相手先が米欧(+中国)ではない場合には要注意です。

つい先日もテラという会社がコロナの治療薬をメキシコで開発する、ということでぶち上げて、100円の株価を2000円にした挙句、全部がデタラメだったことがばれて破産する、という事件がありました。

日本の製薬会社にとっては、よほどの大手でない限り英語で臨床試験を動かすことすらハードルが高いのに、いきなりメキシコはないだろう、と思いますが、株価が上がった、ということは株を買いに行った人がいる、ということですからね。マネーゲームとしては良いのかもしれませんが、プロジェクトの成功確率の評価としては「全くダメ」な例です。

 

だいたいこういった点を見ておけば、創薬詐欺は見分けられるでしょう。

 

では、こういうことがわかっているのに、「なぜ誰も言わないのか?」って言うのですか?

それは簡単な理由で、「このプロジェクトはうまくいきませんよ」って言っても誰も儲からないからです。

「必ず成功するよ」 「国産で世界初の技術だよ」、と言っておけば株価も上がるし、資金も集まります。そこへ政治家や知事が「期待の技術だから補助金を出そう、応援しよう」と言えば、必然的に大きなお金が動きます。

 

製薬会社や投資銀行のプロの目から見ていると、「どうしてこんなものにお金を出すんだろう?」と思うような案件はたくさんあります。私たちプロジェクト評価のプロは会社やお客様からお預かりした大切なお金を使っていますから、できるだけ成功確率の高いプロジェクトに投資しようとしますので、プロジェクトを見る目がシビアです。そして、ほとんど場合、その評価は正しいことが多いのです。もちろんその目は逆の方向、つまり「このプロジェクトは成功するに違いない」というものを見つけ出すことにも使われます。少なくとも私が見つけたプロジェクトは全て世界的に成功しています。

 

でも製薬会社の経営陣やマネジメント、メディアの見る目はまた少し違います。その会社の戦略として開発を発表してしまったプロジェクトを「やっぱり駄目ですね」と言ったら株価は下がる、経営責任は問われる、ということになりますから、絶対にそんなことは言えません。その結果、とにかく「可能性はある」「成功を確信している」と言い続けることになります。

 

10年近く前に、ある日本の中堅製薬会社が「新しい作用機序の抗がん剤」を社運をかけて開発していたことがありました。毎年毎年業績発表の時になると、「成功が見えてきた」「次世代のがん治療の基本になる」と社長が発表するので、会社四季報や会社紹介などには「期待の大きい次世代抗がん剤を開発中」と書かれていましたし、がんの専門家の医師からも「期待の新薬候補」と言われていたのですが、この治療薬はもうその何年も前に、外国の製薬会社と一緒に共同開発をした結果、「成功の見込みなし」と判断されて見捨てられていたプロジェクトだったのです。

その日本の会社は「この作用機序の抗がん剤を開発しているのは、世界中で我が社だけ。当社はこの領域の世界のリーディングカンパニーだ」と宣伝していました。確かに1社しかないのは事実でした。「世界中から取り残された1社」でしたけど。

 

こういったところに、のこのこと行って「このプロジェクトはうまくいきませんよ」と忠告してあげても、株主も会社もメディアも医者も誰も喜びません。「何を嫌味なことを言いに来たんだ!」と怒られるのが関の山です。

 

こういったプロジェクトだって、きちんとした評価をして、そのプロジェクトの性能にあった立ち位置の研究開発計画にしてあげれば、成功する可能性だってあります。身の丈に合っていないアドバルーンを上げた結果、製薬会社や研究者は自分たちも苦しむことになるのです。

海外だと、フィードバックがきちんと入るので、あまり過大なバルーンがあがることがないように思うのですが、日本では変な加熱をしてしまうのです。例えばアメリカであれば、証券取引委員会(SEC)が「風説の流布の恐れがある」という警告を発するだけではなく、FDAやCDC、民間なら医薬品オンブズマンなどが「それは言い過ぎだ」とか言いますし、製薬会社に対しては証券会社、投資銀行や格付機関が「成功可能性は低い」などのコメントを発表することもあります。日本の場合はそういう制御が効いていない上に、政治家や知事がまるで地域の特産品を紹介する科のように宣伝するので、ほとんど宣伝一色になってしまうのです。

 

 

 

 

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