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やみくもにPCRをやっても意味がない理由

こんにちは! 
今日はふたたびコロナのお話です。
 
最近でこそ下火になってきましたが、一時期は
「国民全員にPCRをやるべきだ!」
なんて言っている人たちがいましたが(正確にはRT-PCRです)、
 そんなことやっても意味がない
というお話です。
 
検査をやって感染症にかかっている、かかっていない、という判断をする場合、
検査の精度は、下記のように定義されます。
 感染している感染していない合計
検査が陽性(+)aba+b
検査が陰性(-)cdc+d
合計a+cb+ca+b+c+d
 
感度(真陽性率): a/(a+c) 感染している人の中で検査が陽性になった人の割合
特異度(真陰性率): d/(b+d) 感染していない人の中で検査が陰性になった人の割合
偽陽性率: b/(b+d) 感染していない人の中で、検査が陽性になった人の割合
偽陰性率: c/(a+c) 感染している人の中で、検査が陰性になった人の割合
と言います。
 
特異度は、真陰性率なので、
「感染していない人を感染していないと判断する」
ことに注意してくださいね。
 
また、「ある一時点において、疾病を有している人の割合」を有病率と言います。
RT-PCRは特異度は98~99%ほどと非常に高く、
本当に陰性(感染していない)の人では検査陰性
と思ってよいのですが、
咽頭や唾液に含まれるコロナウイルスの量はさほど多くなく、
検出感度ギリギリの量しか含まれていないことも多いため、
感度は60~80%ぐらいと低いのです。
 
このため、
「本当は感染しているのに、検査陽性にならない人」が結構出ます。
つまり、
「検査が陰性だったら、感染していない」とは言えない
ことになります。
 
つまり、
「感染してないことを証明するためにPCRを受けてきてください」
という指示は意味がないのです。
 
計算してみましょう。
RT-PCR法の特異度を99%、感度を70%、有病率を8%とした場合、
100万人都市で全員が検査を受診したとします。
有病率8%なので、この町では
  1000000×0.08 = 80000人
つまり8万人が感染している状態です。
 
感度が70%ですから、
「感染している人のうち検査陽性の人の数」は、
   80000×0.7 = 56000人
5万6000人にしかなりません。
 
感染者80000人の残りの2万4000人は
「感染しているのに検査陰性(偽陰性)になった」人
です。
 
「検査が陰性だったから感染していない」とは言えない
ことがわかりますよね。
 
しかもこの結果を得るためには、この8万人だけを検査すればよい訳ではなく、
100万人全員を検査する必要があります。
 
つまり、感染していない92万人も検査しているはずです。
検査の特異度は99%ですから、92万人のうち、
   920000×0.99 = 910800
91万800人は
「感染していないので検査が陰性だった」
人たちです。
でも、その差9200人は、
感染していないのに検査が陽性になってしまった(偽陽性)
人です。
 
これをまとめると、
 感染している人感染していない人合計
検査陽性だった人56,000   9,200     65,200
検査陰性だった人24,000910,800   934,800
合計80,000920,0001,000,000
と表にすることができます。
 
つまり、100万人検査をして
 9,200人は感染していないのに検査陽性で感染していると誤診され、
 24,000人は感染しているのに検査陰性のため感染していないと野放し
になります。
 
仮に、有病率が8%と分かっていて、
8万人分の隔離施設を用意してあったとしても
検査陽性となる人は6万5200人しかいません。
しかもそのうち9200人は本当は感染していないので、
 隔離する必要のない人
です。
 
しかも100万人の検査を一生懸命やっても
本当に感染している人のうち2万4千人は見逃されてしまいます。
「PCR検査が陰性だったよ」と検査陰性証明書をもらえるのは93万4800人ですが、
そのうち2万4000人は
「本当は感染しているのに見逃されてしまった人」
です。
 
検査陰性証明書に意味がないことがわかりますね。
 
また有病率が低ければ低いほど検査効率は悪化します。
同じ100万人都市で、本当の感染者数7000人、つまり有病率0.7%の状態で、
同じく特異度99%、感度70%の検査を実施すると、
 感染している人感染していない人合計
検査陽性だった人4,900    9,930    14,830
検査陰性だった人2,100982,070   984,170
合計7,000993,0001,000,000
となり、なんと、
検査陽性だった1万4830人のうち、9930人は
感染していないのに検査陽性(偽陽性)になる
のです。
 
昨年のように、
 感染開始初期でまだまだ有病率が低い時期にやみくもに片っ端からPCR検査を行う
と偽陽性の患者数が膨れ上がるために見かけ上の患者数が拡大します。
しかし、偽陽性の人が多いので、見かけ上の重症化率や死亡率は低くなります。
某国の「K防疫」はこの現象を見ていただけです。
 
有病率0.7%の表で計算してみましょう。
もし死亡率10%というひどい感染症だったとしても、
本当に感染している人のうち検査陽性の人は4900人しかいませんから、
検査陽性の死亡者数は490人です。
でも、検査陽性になった人は偽陽性も含めると1万4830人いますから、
  490 ÷ 14830 = 0.0330
つまり、見かけ上の死亡率は3.30%に下がってしまいます。
 
有病率が高くない段階で検査を手当たり次第に実施して「診断」すると
あたかも死亡率が低いように見えますが、これは
 偽陽性が多いために死亡率が見かけ上低くなっているだけです。
こういう状態になるのを避けるためには、感染拡大初期には
 感染症にかかっている可能性の高い人に絞り込んで検査をする
ことが必要です。

 

やみくもに何でもかんでも検査をしてはいけない、のです。
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