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ワクチン特許についての報道

こんにちは!
 
ここ数日、アメリカのバイデン大統領が、
新型コロナウイルスワクチンの特許権放棄を支持すると表明
と報道されています。
 
ワクチンの特許を放棄すればジェネリックワクチンが作られて世界中のワクチン供給が増える
という理由らしいですが…
これは、そう簡単な問題ではないのです。
 
そもそも
ファイザーやモデルナのmRNAワクチンと
アストラゼネカやJ&Jのウイルスベクターワクチンと、
ノババックスの不活化ワクチンでは、
製造方法も使う技術も、全てが、全く違います。
 
ノババックスの不活化ワクチンは
昆虫の細胞を培養したタンクに、コロナウイルスのスパイク蛋白遺伝子を導入したバキュロウイルスというウイルスを感染させることで
コロナスパイクタンパク質を大量発現させます。
バキュロウイルスによるタンパク発現系は比較的ポピュラーな技術なのですが、
特殊なナノ粒子化技術を使っていることと、
サポニンをベースとしたMatrix-Mというアジュバントを使っていることが特徴です。
ノババックスのワクチンはアメリカでは富士フィルムが製造している他、
インドの Serum Institute of India(インド血清研究所)やグラクソ・スミスクライン、武田薬品などが製造協力をすることになっています。
 
アストラゼネカのワクチンは
もともとはオックスフォード大学の技術で、
E1領域を欠失させたチンパンジー由来アデノウイルスにコロナウイルスのスパイク蛋白のRNAをDNAに変換して導入したものです。
E1領域はアデノウイルスの増殖に必須の遺伝子なので、このアデノウイルスはそのままでは増えることができません。
このため、ヒト胚性腎臓細胞にアデノウイルス5型の遺伝子を導入したHEK293細胞という特殊な細胞に感染させて増やします。
基本的な技術はHEK293の細胞培養技術で、1000~2000Lぐらいのsingle-useプラスチックバッグ培養槽で製造できるのが特徴で
、既に世界中のバイオ医薬品製造会社と契約しており、世界各地で作られています。
J&Jのワクチンはウイルスベクターにアデノウイルス5型を使用したもので、
遺伝子導入システムとしては歴史も経験もあるものですが、
基本的な製造方法はアストラゼネカのものと同じです。
 
ファイザーとモデルナのmRNAワクチンの製造は全く異なります。
そもそもmRNAは非常に壊れやすい物質であること、
このため、大量生産のコストが非常に高いこと、
また、大量のmRNAを一度に細胞に入れると異物として排除されてしまうこと、
などから、実用化は非常に困難でした。
このため、ウリジンをシュードウリジンという修飾ウリジンに変えて製造することで、
安定性を増して必要RNA量を少なくすることができました。
また、工業的に製造したRNAにはCap構造というmRNAの転写促進や安定化のために非常に重要な構造が作れませんでしたが、
アメリカのTriLinkというベンチャーが5’末端のCapとして使う特殊な物質の合成に成功して工業的にCap構造を付加することが容易になりました。
また、遺伝子コード領域には、K986P、V987Pという2つの変異を意図的に挿入することで、中和抗体が産生されやすいようにしています。
さらに、3’にはAmino-terminal enhancer of split (AES)遺伝子由来配列やミトコンドリア12Sリボゾーム由来配列を組み込んで
mRNAを安定化させています。
この他にもたくさんの企業の特許が使われています。
 
このワクチンはサプライチェーンも非常に長く、製造法は非常に複雑で技術的難度は非常に高いものです。
 
また、ファイザーのワクチンは、ファイザーだけが作っているのではなく、サノフィ(フランス)やノバルティス(スイス)などの大手製薬企業も充填・最終包装などで協力しています。
これらの技術は一朝一夕で得られるものではなく、
 
多くの研究者やベンチャー企業が努力に努力を重ねて作ってきたものです。
また、これらの技術の中には、
テロリストに渡ればバイオ兵器に転用することが可能な技術
も含まれています。
 
これらの特許を停止して
「ジェネリックワクチン生産を推進しよう!」
というのは極めて一方的で危険です。
万が一にも技術が危険な使われ方をして、将来に禍根を残さなければ良いのですが。
 
特許の解放・停止よりも
 サプライチェーンの拡充・サポートによる製造能力の拡大
の方が現実的であり良い方法だと思います。

 

今日は専門的で難しい話になってしまって、ごめんなさい。
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